第7話 答えを見つけても

 好きになってくれたら、なんて期待してしまったから心がこんなにも苦しいのだろう。

 恋愛小説にも手を伸ばせなくなった。ロミオとジュリエットも痛くて、もう読んでられないよ……。



『恋の芽生えが恨めしい』



 ジュリエットが吐いたこの言葉は私と同じ意味かな。期待しないんじゃなくてできない。彼女のものがたりは上手くいかない定めだったから。


 私もこの想いを諦めてしまったら、風間くんの隣にいられないって決めつけたら、彼女と同じ運命がきっと私を待ち合わせているだろう。

 このまま文化祭が終わって、秋が、冬が来て、席替えがあって、隣にいれる時間もすぐに無くなってしまうかもしれない。


 未来を変えるには、この私の青春ものがたりを変えるには、一体どうしたらいい?

 私はどうしたい?




 ――――




 あの時、私の中にはすぐに答えが出ていた。

 それなのに私の青春ものがたりは何一つ動いていない。

 変化していることと言えば、クーラーの設定温度が少し上がったくらいだ。


 脚本は完成して大道具や衣装が出来上がると共に、演劇は今日、初めて通しの稽古がされた。頑張っているクラスメイトを横目にしながら、何も変化のない私の日常に1人、重いため息をつく。



河合かわいさん」



 その声に合わせる顔がないんだけどな、と心でそうつぶやきながら私は、風間かざまくんの方を振り返った。



「どうしたの?」


「俺、劇の通し稽古めっちゃ感動したんだよね」


「そうだね、みんな演技うまかったし」


「ちがうよ!」



 勢いよく否定する風間くんは笑ってこう言った。



「河合さんの作った話が、1つの形になったことに感動した」


「それは風間くんも――」


「わかってるけど、俺も作ったんだけど、1人だったら絶対脚本なんてやらなかったし、河合さんじゃなかったらあんなに心が揺れ動くものはできなかったと思う。懸命になるロミオに共感したり、誰かを思う感情に憧れや羨望の感情を抱いたりしなかったと思うんだ!」



 私の声を遮る彼はそう言いきった。

 でもね、その物語は風間くんがいなかったらできなかったんだよ?

 そう言えずに私が立ち尽くしていると、風間くんは「ありがとう」と私にあるものを差し出してきた――。



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