第4話 やっと目覚めた
「好きってそんな簡単に諦められるようなものじゃないからだよ」
その言葉に思わず視線を奪われる。
「好きな気持ちを無くさないとって思えば思うほど忘れられなくなる。それどころか辛い恋は脳裏に映る好きな人の顔に胸がぎゅっと締め付けられ、これが恋なんだって思うんだ」
憂いに満ちた目、現在形の言葉、話のトーン。
「恋なんて一見綺麗な感情っていうイメージだけど、人の欲がそれを濁す。それこそロミオとジュリエットは〝結ばれずに生きるくらいなら死んだ方が幸せ〟って考えが物語をバッドエンドへ運んだし、諦めずに最後まで足掻いちゃうんじゃないかな」
風間くんが言うような心に引っかかる感情を私は知らないはずなのに、心が少しざらついて私は上手く話せなかった。
少し流れる沈黙に、風間くんが私に向かってこう投げかけた。
「
と。
電撃が走るような感覚がした。
それでも名称不明の感情が恋なのか判断するほど、私に経験が足りない。
だからこんな言葉を風間くんに投げた。
「わかんないよ。恋って、何?」
疑問と戸惑い。少し歪んだ私の言葉が心を逆なでするようで、その気持ち悪さを言葉として足す。
「恋とか好きとか、物語の中だけの感情なのかなってどこかで思ってて……。うまく言えないんだけど、〝死んでしまう方が〟って誰かに対して思ったことはないけど、思わず視線を取られたり、ある人の言葉にそうなったらいいな、とかは少しだけ思う」
最近のよくわからない感覚はうまく言葉にできなかったけれど、あんなに深く恋について話せる風間くんならこの感情が恋なのか教えてくれるんじゃないかと期待した。
「どうだろ……。
恋って世界が一変して見えたり、日常風景が明るく見えたり、色彩が濃く見えたり、人それぞれで変化もとらえ方も違うからそれが恋かは俺は判断できないけど、恋による変化が起こっているって思えるなら、それは恋なんじゃないかな」
世界、日常風景……。
心に引っかかる単語に私はあのカフェの風間くんの姿が脳裏をよぎる。
あの時、私は言葉に詰まったことが原因で、時間に置いてきぼりにされたのだと思っていた。
でも多分、違う。
太陽の光がグラスを照らして、乱反射した光が風間くんへと注がれていた風間くん。
きらきらと輝いて胸の奥の締まるような感覚、と思えば瞬きを躊躇うくらい大切な瞬間な気がして動けなくなった。
あれが、恋?
握っていた手のひらをほどいて落としていた視線をまっすぐ前に戻すと、まるで『そうだよ』と言いそうな顔で風間くんが待っていた。
心臓の音が加速するのが分かる。
「私のこの感情は恋、だと思う」
肯定していいか迷う私はその自信のなさゆえ、せっかくほどいた手を胸の前まで持ってきて結びなおした。
「よかったね」
にこっと微笑みかけてくれる風間くんを見て、私はこの恋という感情に出会えてよかったと思い、つい笑みをこぼす。
心の真ん中に2つ熱が灯るような感覚がした。その感覚は本と出会った時以来のもの。私に大切な対象が増えた証のようなものだ。
そして私はもう迷うことなくこう言える。
私の大切なものは本の他に、好きな相手〝風間
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