番外編2024/6~
【夜逃げ聖女発売記念SS・WEB版限定】エリィの異変?
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Epilogue後の日常SSです。
<注>こちらはWEB版バージョンのストーリー分岐
ですのでご注意ください。
書籍版ではギル・エリィの結末が大きく異なります!!
(7/25発売の第二巻で確認いただけますと幸いです^^)
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◆ ◆ ◆
俺が
自他ともに認めることだが、俺は根っからの軍人気質だ。
そんな自分に公爵としての役割など務まるだろうか――という懸念はあったが、幸いなことにこの暮らしにも馴れてきた。
国王陛下やユージーン閣下のご助力、そして騎士団時代からの仲間の尽力があればこそだと思う。本当に、感謝が尽きない。
「おかえりなさいませ、旦那様」
領主邸に戻った俺を、家令や使用人一同が出迎えた。
用件で王都に出向いていたので、2週間ぶりの帰宅だ――不在中に生じた案件などを家令から聞きながら執務室へと向かおうとしたそのとき。
「……ギル!」
晴れやかな声が、玄関ホールに響いた。とろけるような笑みを咲かせて、エリィがこちらにやってくる。
「おかえりなさい」
「ただいま、エリィ」
2週間ぶりの妻の顔に、俺の顔もほころんでいた。
「お出迎えが遅れてしまって、ごめんなさい。少し取り込み中だったの……」
「まったく構わないよ――――」
しかし。
微かな違和感を覚え、俺はぴくりと身をこわばらせた。
「……――」
「どうしたの、ギル?」
血の匂いだ。
ごくわずかな、血液の鉄臭。それが鼻腔に飛び込んできた。
幾度の戦闘を潜り抜け、嫌というほど嗅いできたその匂い。一体どこから……?
そして気づいた。
血の匂いは、エリィから漂っている。
「……エリィ。負傷しているんじゃないか?」
「え……?」
俺はエリィの手を取った。今日の彼女は絹手袋をしている――普段は手袋などしないのに。きっと、手の負傷を隠すためなのだろう。
エリィの瞳が、戸惑いに揺れる。
「い、いいえ……していないわ、ケガなんて。全然……」
「なぜ隠すんだ。治療は済ませたのか?」
エリィは答えあぐねて長いこと口をつぐんでいた。長いまつげを震わせて、視線を彷徨わせていたが――。
「……ええ。もう、大丈夫よ」
観念したかのように、そう答えた。
「一体何があったんだ!? まさか大聖女の職務中に、何か危険なことでも――」
「違うわ、ギル。本当に大丈夫だから。お願いだから、心配しないで。……ね?」
切実な瞳で、エリィはそう訴えてきた。追及を恐れているのは明らかだった。
「ギルは長旅で疲れているでしょう? まずはゆっくり体を休めて。お夕食のときに、またゆっくりお話ししましょう?」
そう言うと、エリィはどこか落ち着きのない様子で俺のもとから去って行った。
*
「エリィ……」
自室で休んでいても、エリィを思うと気が気ではない。いつもなら、俺が査察などから帰ればエリィはすぐに出迎えて、一緒に部屋で過ごしているというのに。今は部屋に来る気配もない。
――何かがおかしい。エリィの身に、一体なにがあったんだ?
使用達に尋ねても、困惑して「分からない」と応えるばかりだった――ということはやはり屋敷の中の出来事ではなく、大聖女としての職務中の事故に違いない。
何か深刻な問題でも抱えているのでは――
エリィは俺に何か隠し事をしていた。
俺は夫でありながら、彼女の苦しみに寄り添えていないのではないか――そう思うと、腹の奥を引っ掻かれるような焦燥感が湧き上がる。
そのとき、コン、コンというノックの音が響いた。夕食の準備ができた、とメイドが知らせに来た。
「……やはり、夕食の席でエリィに確認するとしよう」
そう決めた俺は、ダイニングへと向かった。
*
「ギル!!」
満面の笑みを浮かべたエリィが、ダイニングで俺を待っていた。
なぜかエプロン姿で。
「……どうしてエプロンなんだ?」
「もちろん、お料理をしていたからよ」
苦笑して、エリィは肩をすくめている。
「今日は、あなたが帰って来てくれる日だから、大聖女のお仕事を早めに切り上げて厨房でお料理をしていたの。ザクセンフォード辺境騎士団で雑役婦をしていたころ以来だから、手間取ってしまったけれど」
負傷の理由が、理解できた。
「また包丁で血まみれになっちゃった……。自分の傷は治せないから、はずかしいわ」
「エリィ……!」
安堵と喜びが込み上げて、俺はエリィを抱きしめていた。
エリィは恥ずかしそうに頬を染め、「冷めないうちに、いっしょに食べましょう」と着席を促してくる。
ふたりの食事の始まりだ。
「ありがとう、エリィ。いただくよ」
「でも、あまり手際が良くなくて、煮込みを作るだけで時間切れになってしまったわ。本当はサラダやデザートも作りたかったんだけれど……」
「かまうものか。最高の気分だ」
エリィが作ってくれたのは、トマトの煮込み料理だった。ハッとした顔でエリィが言う。
「それ、血は入っていないから安心してね。赤いのは、トマトよ?」
「分かるよ」
ははは、と思わず笑みがこぼれた。
清楚で理知的なエリィだが、料理や掃除を任せるとこういう感じになってしまう。そこがまた、愛らしくて堪らないんだ。
「とても美味い。また頼めるか?」
「ええ!」
花開くように笑うエリィを見て、俺は幸せでいっぱいになった。
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#夜逃げ聖女 6/14 ビーズログ文庫
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【書籍化】氷の公爵令嬢は魔狼騎士に甘やかに溶かされる【カクコン8受賞】 越智屋ノマ@魔狼騎士2重版 @ocha
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