予想を上回る面白さと奥行き

なんだこれは。
読了後、一週間ほどRingNeショックを喰らっていた。

『人が植物に輪廻する世界で、終わり方を探す物語』との前触れから、つつましやかなファンタジーを予想して読み始めたが、見事に裏切られた。

想定より純粋でダイナミックで破壊力のある物語だった。
そもそもなにかがおかしい世界において、純粋さほど狂気的なものはない。

繊細な鉛筆書きのような口調で淡々と語られる言葉たちは、
非日常から巧妙に日常に侵食し、「今のわたし」に問いを突き付けてくる。
作者の体験作家としての手腕が発揮されていて見事。

そして、仏教や量子論・植物にまつわるエピソードを背景に、
時代は容赦なく巡ってゆき、それに翻弄される各登場人物が愛おしい。

今作は「論理より情緒」がテーマの一つとのことだが、
それぞれの執着と選んだ答えに触れるたびに、
祝うとは、美しむとはどういうことか考えさせられた。

AI技術の普及により、死生観や人間観が見直されようとしている今
この作品を読んで、なにか共鳴するものがあった人とは、
きっと良い友になれると確信している。

また、前作『KaMiNG SINGULARITY』からの読者としては
隠された真相にさらに一歩近づいた気がして、推測や妄想が止まらなくなった。

読み終わった方はこちらも合わせて読まれることをおすすめする。


未だ、ゴルトベルク変奏曲が鳴り止まない。