綺麗な文体と断片的な記憶が交差して見えてくる世界はどんな景色だろう

景色や綺麗な文体、サラサラと読み進める事ができそうな気がするのと裏腹に、なかなか先を読む事ができず、随分と日数をかけて読みました。

ビジネス書を読む事や現実生活の中で過ごす時間が圧倒的に増え、物語の世界へ入り込むのは久しぶりの事でした。物語と言っても、少し不思議なSF。「ありそうな未来」のお話です。読みながら、様々な情景や断片的な記憶が交差してゆきました。


好きな人はできれば温かみを感じられる位の距離に居て欲しい。
大切な人と双方の想いを受け取れる位の関係性でありたい。

目の前からスッと姿を消してしまうというのは、これからもずっと一緒に居てくれると思っていた日常や未来を一緒に育む事ができないということ。
その損失の大きさ。過去の思い出だけで生きていくには人生は長過ぎる。

周りの大切な人達がどんどん居なくなり、日常生活もおぼつかなくなる世界の中でどのような選択をするのか。

大切な人に対して、「自分としては、こうして欲しい」という期待はありつつも、「相手の選択を尊重したい。」という交差する想い。

小説の中で描かれる想いや心情というのは、具体的な事象自体は異なっていても今までの人生の中で不意に突きつけられてきたことのある景色を映し出していきます。

随所に記憶の底に仕舞われていた過去の断片的な記憶がパッと襲ってくる事が多く・・・その度に、涙が溢れたり、心が揺さぶられたり、読み進める事を中断せざるをえなくなります。

味わいを減らして読み進めてしまうのは、あまりに勿体ないという事もあり、居住まいを正して、メンタルを整えて作品に向き合うという事を幾度となく繰り返していたので、読み終えるまでかなりの日数を要しました。

その後も、幾度か読み直したり、仲間と共に読書会で感想を言葉にし合ってきました。

祖父が亡くなった頃のこと。高校時代の親友と一緒に大学入学のお祝いを兼ねて食事していたレストランで東日本大震災で被災。その後、避難していた時に見た景色。震災で工場が燃える煙を眺めていた日のこと。震災から2年後、その親友が自死を選択したこと。

中学時代3年間、毎朝一緒に登校していた別の友人が、高校時代、気づいたら学校からいなくなっていたこと。

mud land fesで泥に塗れながら空を眺めて寝転んだ景色。
三重の砂浜で洋服のまま海に入って泳いだこと。
夜中に手を繋いで輪になったり、仲間達と一緒に歌っていたこと。
北海道でのアイヌやウポポイの旅。

南足柄の自然や夕日の滝の景色、箱根の山の中・・・。

人が生きていくこと、死に方の自由。人の選択を尊重すること。


「今日も辞めないという選択をしながらOLを続けている」と思いながら働いていた20代前半の会社員時代。「死亡率は100%。今日、死ぬかもしれないけれど、『この選択をして良かった』と言える選択はどれか?」と常に問いかけていた頃。


小説を読みながら、自分はこの世界でどう生きるのか。
自分や周りの人達の人生や日々の生活を改めて思い返す機会になりました。
自分のやりたい事や夢を叶えさせてあげられるような積み重ねをしていきたいと強く感じました。