47・乞食の餓鬼
別れた場所に戻ると、大男も帰ってきてる最中だった。五人いるうち、動いたのが三人。その場で苛々してんのが二人って感じか。
「そっちも戻ったようだな。収穫は……三人か」
大男の後ろに小さな影が三つ。全く、どいつもこいつも考えてる事はおんなじか。子供だけ残したってこの世は地獄でしかない。それでも可能性に賭けたかったってところか。
「隊長は、五人」
「ああ、全員子供だが、まあ、年長の奴が上手くやってくれるだろ」
後ろを振り返ると結局全員付いてきたみたいだ。不満そうな目を向けてきてるのが一人いるけど、今更だな。
「他にはいなかったか」
これ以上探しても無駄そうだ。一旦切り上げて城に戻った方が良さそうだな。
「結局こんなに探しても童数人かよ。奴ら追いかけた方が良かったんじゃないかね」
成果が少ないと文句を言ってくる兵士の一人が、俺を見下すように突っかかる。実力も理解できてない馬鹿丸出しの阿呆だ。
「だからどうした。俺達の任務は――」
「逃げてる奴らの追撃じゃないってんでしょ。だけど現実、何にも成果がない。村は壊滅で、残ってんのは役に立たない童が数人。こんなん上に報告したら笑われますぜ! 逃げ帰ってきた臆病者だって!」
「全滅してたら笑い話にすらならないけどな」
頭の悪い大人と喋るのは面倒だ。雨が降ってるから火が燃え広がる事はないし、これ以上留まる理由もない。撤退を指示していると、納得してない顔をしていた。
「月白様の弟子だかなんだかで調子に乗りやがって……」
ぶつくさ文句を言って恨めしげに指示に従う奴を見送ると、年長の奴が訝しむようにこっちを見ていた。
「どうした?」
「なんで言い返さなかったんだよ。あいつら、お前のこと馬鹿にしてたんだろ?」
「あんなもんに取り合っても仕方ねえだろ。馬鹿らしい爺さんの弟子とか関係ねぇっての」
「いや、関係あるんじゃね?」
呆れた顔で言ってくるけど、たかだかそんなもんで爺さんやあの天狗の大男が足軽隊長を任せるわけがない。
「はん、俺も爺さんに拾われるまでは泥すすって生きてきたんだぞ? んなもん、よっぽど理由なきゃこきつかっておしまいだろうが」
弟子だなんだと言っても所詮最底辺。価値なんてないも同然だ。実力があるから認められたんだ。だから、あんな僻みなんか気にしてられない。
「拾われた? お前が?」
信じられないとでも言いたげだ。こいつの目には親の力を借りていい気になってる奴とでも映ってんだろ。
「なんかおかしいか?」
「……別に。どうりでって思っただけだ」
「そうか」
準備が終わり、拠点へと帰る。散々文句を言ってた奴らも結局下剋上とか自分達で死地に行く事も出来ずに黙って従った。
現状に不満をぶちまけたい輩だっただけに当然の事だろう。帰ったら仲間達に愚痴を言ってそうだ。
――
それから子供を引き連れて時間をかけて拠点に戻る。時には狩りをして飯にありつく。生きてるか不確かな相手に割ける食料など僅かにしかなかったからな。
必然的にこういう事もしなけりゃなんねぇ。そうするとやっぱり手伝わない奴が出てくる。そういうのに限って分けろだのなんだのとのたまうから――
「出された飯だけ食べたいならさっさと帰れ。何もしないなら食うな」
と刀を突きつけて言うことになった。一度それで刀の抜き合いになりはしたが、そもそも練度が違う。俺は休まず刀を振り続けた。ただひたすらそれを繰り返して生きてきた。その自信が根っこにある。吠えるだけの輩よりも強いのなんて当たり前だ。
一度叩きのめすとその後は大人しくなって睨むだけだったり手伝ったりしてくれるようにはなった。
夜はどこか張り詰めた空気をして俺に殺気を向けてくるくらいはあったけど、そんなもんは今更だ。
涼しい顔で受け流しているうち、目的の拠点まで戻ってそこで部隊は解散。俺は大男や残っていた足軽達を率いて爺さんのところまで報告に行くことになった。
「……それで、この結果か」
他の連中は襖の向こうに待たせて、俺は爺さんと共にいる天狗の男に余す事無く報告した。勿論、兵士達と揉め事になった事も。
「概ね我らが想像していた通りになったな。このままでは将として部隊を引く事は出来まい」
「……それは、俺が頼りないから?」
「以前の問題よ。戦の最中、撤退時。配下の兵が命令に背く可能性がある。そのようなものを将として召し抱える事など出来ぬというわけだ」
「身長もそうだが、やはり功績か。後は気迫も足りん。素養はあるのだから経験を積むしかないな」
今回のことでまだ部隊を率いるには早い。そう結論付けられた事が多少は悔しく感じる。
「……それで、救出してきた奴らは」
「ふむ、まずは他家に預け、様子を見るか。運が良ければ……」
ちらりとこっちに視線を送る爺さんが何考えてんのかいまいちわからん。
「なに、案ずるな。悪いようにはせんよ。むしろお前にとって此奴らの存在はいつか必ず益となろう」
太鼓判を押すように言ってくれるが、本当かどうか怪しいもんだ。
ま、路頭に迷う事はねえだろ。最悪、外での生き方さえ知ってりゃなんとかなるだろうしな。
「しかし意外よな。主が甲斐甲斐しく世話を焼くとは」
「どういう意味だ?」
「似た境遇にあったからこそ甘えるな、と突き放すと思うておったわ」
はっはっはっ、と笑う天狗男の言いたい事はわかった。そう思われても仕方ねえけどな。
「別に。ただ、掴める好機をこいつらも手にした。それだけだろ」
「ふぅむ」
改めて視線を向けられた子供達は身を竦めていた。こればっかりは俺もどうにも出来ん。連れてきたのだから、後は存分に自分の力で打開すればいいさ。
全員で外に出ると、兵士が数人待っていた。こういう時の準備は早い。
「これでお別れだな」
「……あんた、名前なんて言うんだ?」
「あ?」
「聞いておきたいんだよ」
兵士に渡してこれで終わりと思ってたから名前なんて聞いてくると思わなかった。まっすぐこっちを見つめてくるそれがやけに眩しい。
「出鬼だ」
「……ありがとう。出鬼の兄ちゃん」
それだけ言って全員行ってしまった。残されたのは俺と……何故か大男だけだった。
神憑きアヴェンジャー 灰色キャット @kondo3
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