46・新しい出会い
次の日。始道の爺さんに事の顛末を報告した。ついうっかり稽古のことまで話してしまい、頭に拳骨が飛んできた。
「全く……予想の上を行きおるわ」
ひとしきり笑った後で突きつけられた条件は二つ。
尋問に可能な限り積極的に答えさせること。
何か問題が起こった場合、責を俺が負うこと。
最初の時と全く変わってないことに気づいて、なんだかんだ気にしてはいたんだな、と。
ついでに仕置きとして城中の掃除と地獄の特訓とやらを申しつかったが、そもそも特訓はきつい方が良い。より強くなれる実感もあるし、手応えを感じるくらいがちょうど良い。
あれから
爺さんにその事について尋ねると――
「戦に裏切り、寝返りは常。真に忠義を尽くせると慕われる
と言われた。別に気高い男になるつもりはねぇんだが……まあ、どうでもいいか。
ついでに壱太も始道家の方に移る話が出てるらしく、それも驚いたもんだ。天狗の大男と爺さんで長い話し合いをしてたのを偶々聞いたから間違いない。
壱太も俺の下に付けるとかなんとか。このままいったら俺も将の一人になるのか? 動きにくくなるのは困るし、これ以上は要らないんだが……。
そんなこんなで事態が進んでいる間、俺は数人の兵士と一緒に陥落した城の近隣の村の様子を見に行くように言われた。どうやら逃げた先々で略奪行為をした輩がいるらしく、被害の状況の確認をするためらしい。そんなことする暇があるなら刀を振るって力をつけたいと声を大にして言いたい。
……ま、それが出来りゃあ多少は様になったんだろうが、厄介になってる身からすれば無理な話だわな。
というわけで、爺さんに逆らえず結局行く事になった。五人で組んで、俺が隊長って感じだ。俺と同じ歳のやつなんか一人もいねぇから下に見てやがる連中ばっかだ。
「こんなのが子供が隊長?」
とか言ってるのを確かに聞いた。まあ、どうでもいいんだが。
子供なのは仕方ない。俺も成長してないし、
言うことは聞いてるけど、いざとなったら俺を見捨てて逃げるくらいは平気でするだろうな。その方がありがたいんだが。
急ぎの進軍でもないから食事休憩を挟みつつ夕方まで歩く。指示を受けたのはここより一日半くらいの道程だな。警戒しながら先に進むと、ぼろぼろになった村に着いた。
「ひでぇ……」
ぼそっと誰かが呟く声が聞こえた。焼けた家や肉の匂い。まだ腐った臭いがしないから襲われたのは最近か。廃村跡地って言った方がしっくりくる。
ここまで徹底的にやったって事は、よほど余裕がないって事だろう。
他の奴らは嫌そうだったり、怒り混じりにしているけど、俺は普通に冷めていた。こんなもん、俺が育った場所でも見た。
規模が違っても中身はおんなじだ。違うのは搾取されたかそうじゃないか。
「生存者の確認を急げ」
「……こんな中にも残っていると?」
とりあえず指示を出してみたが、やっぱり疑問をぶつけてくる。んなもん知るかよ。
「残ってたら俺達が見殺しにした事になるな」
「ここまでされて生きてる奴がいるのかも怪しいだろ! それよりまだ発ってまもないはずだ。追いかければ――」
「だったら勝手にくたばってろ。俺は知らん」
だから独りの方が良かったんだ。こんな奴らに付き合ってたら命が幾つあっても足りねえ。
「あんたそれでも隊長かよ!」
「だから好きにしろって言ってんだろ。命令は聞けない。自分から危険に飛び込む。俺はお前らのおもりする為に隊長押し付けられたんじゃねえんだよ。追いかけたい奴は勝手にしろ。規模も装備も距離もわかんねえ。そんな状態で追いつけてまともに戦えるならな」
少し睨むと黙る。俺のことを気に食わないならそれでも良い。面倒事はごめんだ。
「……どこ、探せばいい?」
その時声を出したのは、こんなかでも俺が隊長な事をなんとも思ってない奴だった。坊主頭の大きな体の男で、この中でも一番でかい。何考えてんのかよくわからんぼけっとした顔をしてる。
「お前はあっちの瓦礫をどけて探せ。俺は焼け残った家を確認する」
「落ちてきたら、危ない。大丈夫?」
「問題ねえよ」
それを聞いて大坊主は歩いていく。まあ、こいつくらいは何も聞かずに従ってくれるからいいか。
「お前達も俺の命令を聞くつもりがあるなら三人はあの大坊主と一緒にいけ。二人は周囲の様子を警戒しろ。作業中に戻ってきた奴らに襲撃されたじゃ話になんねえからな。何かあったら発煙筒を使え」
それだけ説明して俺もさっさと自分の役割を果たしにいく事にした。他の奴らは好きにすれば良い。こんな子供の言うことなんざ聞かないってんならな。
――
雨が降り出してきて、本格的になるまで時間は掛からないだろう。早く終わらせたいもんだと家の残骸を覗き込む。当たり前だが何も残ってない。黒焦げになったものがあるだけだ。
確認していると、中途半端に屋根が焼け残ってる場所に身を寄せ合ってる連中がいた。
「なんだ子供か」
「……おめえもそうだろが」
近づいて確かめると、ボロボロの服を着た子供が数人。その中でも年長だと思える奴が見上げるように睨んできた。
「親はどうした?」
「死んだ。俺らは壺ん中や別ん場所に隠れてた」
「そうか」
これで一応生存者は確認して出来たな。とりあえずどうするか?
「俺は生き残った奴らを助けて回ってる。お前らもついてくるか?」
「……ついてどうする? 俺ら親も死んで村もなくなって」
「んじゃあそこで死んでろよ」
面倒な奴らだ。ぐちぐち言ってる暇があったらついてくりゃあいいのによ。
「お前……!」
「親が死んだ。生きていけないってか。甘えんなよ。そんな考えしてる奴を助けにきたんじゃねぇんだよ」
「じゃあどうしろってんだ。お前みたいな奴に、俺たちの気持ちがわかるかよ!」
「そう思いたきゃ思ってろよ。だけどよ、お前ら悔しくねえのか? 奪い取られて痛い目に遭わされて、膝抱えてだんまりになんのよ。俺はごめんだ。泥すすっても生きる。そいつらを同じ目に遭わせてやる為にな」
目を細める。奴らの事を思い出すとはらわたが煮えくりかえる。
気がつくと全員怯えた目をして俺をみていた。最初に突っかかってきた奴だけ、怪訝そうにしてる。
「死にたきゃそこにいろ。苦しくて、みっともないくらい足掻いてでも生きたい奴だけ俺と来い。爺さんに頼んで世話くらいしてもらうようにしてやる」
これ以上言葉にするのも面倒だし、死にたい奴に無理に希望を与えて生かすなんて事、したくなかった。
背を向けて黙って歩き出すと、湿った泥を踏む音が聞こえる。
確かめることなく、ただ付いてきてるのを聞きながら、雨に打たれて戻った。
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