君はヒーローになれるか!

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

第1話 非情の選択!

 ワタシの妻はパワータイプだ。その性格は酒こそ飲まないが、ゴッド姉ちゃんだ。けして癒し系ではない。どちらかといえば力士系だ。推しではない。押しが強い。


 白くてぽっちゃりではなく、黒くてガッチリ。背は高くないが、顔はかつて一世を風靡したハワイ出身の横綱に似ている。


 すっぴんだと眉毛はごく薄くまばらでヤンキーのようで、その闘争心あふれる顔の迫力をさらに倍増する。


 まるで、ピッコロ大魔王?いや目がギョロリとしているから、ニコちゃん大王?髪があるからやはりスーパーサイヤ人スリーか。





「どう?似合うかしら」


 そんな妻から報告があった。眉毛を描くのが面倒だからタトゥーを入れたのだ。


 微笑む妻の顔を見てワタシは身に迫る危険を感じた。


 なるほど・ザ・ワールド!


 時よ止まれ!


 ワタシは黙って2秒間、思考を加速領域で展開させることにした。


 なぜなら妻の眉毛は、鳥山明が描くヒーローのように、楷書の漢数字の『一』のような凛々しい眉毛になっていたからだ。


 ただでさえ怖い顔なのに、それ以上おとこを極めてどうする!お前はなぜヒロインじゃなくてヒーローを目指す!


 どうせならブルマさんみたいなヒロインを目指しなさいよ!なぜに草書の『へ』や丸括弧みたいな優しい眉毛にしなかった!


 なぜ事前にワタシに相談しなかった!これこそ『身勝手の極み』ではないか!やべぇ、確実にパワーアップしてやがる。


 言いたいことは山ほどあるが、過ぎたことを責めても仕方がない。問題は、今この場をどうするかだ。


 この眉毛は消せるボールペン、フリクションで描かれたのではない。タトゥーである。つまりは、のだ。


 これでは選択肢はあってないようなものだ。


 言えない。


「それ以上漢らしくなってどないすんねん」などとは口が裂けても言えない。


 そんな恐ろしいことは思ってても言えない。言いたくても言えるものか!


 だって直せないんだよ、コレ。言えるわけがない。言ったらどうなることか!


 いや、直せないこともないか。消せはしないが、描き足すことはできるか・・・・・・ってオイ、ワタシは今なにを考えさせられていた⁉︎


 コレに描き足すとその行き先は、焼き海苔眉毛の『北斗の拳』のケンシロウか、眉毛が繋がった『こち亀』の両さんしかないんだぞ。お前はそれでいいのか!


 駄目だ。笑うな!こらえるんだ!しかし・・・・・・


 落ち着け!素数を数えるんだ!2、3にい、さん、よし。あとは知らん!


 答えは最初から「Yes」か「はい」しかなかったのだ。


 ここまでで2秒経過!


 なるほど・ザ・ワールド!


 時は再び動き出す!


「うん、いいと思うよ」


 ワタシはニコリと妻に微笑んだ。


「そう?」


 妻は嬉しそうだ。


 ワタシは賭けに勝った。だが己の信念という大事なものを失ってしまった気がした。


 ワタシはヒーローになれなかった。


 ヒーローになったのは妻だった!














 この物語はフィクションである。何から何まで完全に嘘っぱちのフィクションである。けして事実ではないのだ。


 読者諸君、誤解してはいけない。


 諸君が誤解すると恐ろしいことが起きるのだ。


 このワタシの身に。





 この物語のジャンルはホラーである。






 

 



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君はヒーローになれるか! 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

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