七不思議の語り部

九戸政景

プロローグ

静まり返った夕暮れの校舎。部活動などもとうに終わり、生徒達もほとんどが下校した中、『オカルト研究部』と書かれたプレートがドアに貼られた薄暗い部屋の中に一人の人物がいた。

その人物とは、メガネをかけた学生服姿の短い黒髪の男子学生であり、『部長』と書かれたシールが貼られた椅子に座って紙のカバーの掛かった本を真剣に読んでいると、部屋のドアがコンコンと二度ノックされた。

それに対して男子学生が反応をせずに本を読み続ける中、ドアはゆっくりと開いていき、前髪で目を隠した黒い長髪の女子学生が中へと入ってきた。

すると、男子学生はようやく本から顔を上げ、女子学生の姿に嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ようこそ、『オカルト研究部』へ。君に会えて本当に嬉しいよ。待ち望んでいたのに、中々君には会えなかったからね」


男子学生の嬉しそうな様子に対し、女子学生は何も答えずにずっと立ち続けるだけだった。しかし、男子学生はそれに対して怒りを見せたり不満そうな態度を取る事は無く、嬉しそうにしながら開きっぱなしになっていた本をパタンと閉じた。


「さて、こうして来てくれた事だ。何かおもてなしをしたいところだが、生憎この部屋には今お菓子やお茶は無い。

いつもなら、それらをお供に部員達が怪談や都市伝説を楽しんでいるんだが、ちょうど切らしてしまっているんだ。本当に申し訳ないね」


男子学生は女子学生に対して申し訳なさそうに頭を下げる。しかし、頭を上げてみると、不気味さを感じさせるような笑みを浮かべており、それに対して女子学生が何も言わずにいると、男子学生は笑顔のままで静かに口を開く。


「だが、おもてなしはさせてもらうよ。ここは『オカルト研究部』だからね。お菓子やお茶は無いが、この学園に伝わる七不思議をお話ししよう。

君も知っているように、この学園には他の学校にもあるような七不思議が存在している。そして、七不思議は生徒のみならず教師達も認識しており、この学園の関係者達が騒いでいないだけで、皆が七不思議には恐怖心を持っているんだ。話をしている時は、誰もがどこか怯えたような表情をしているからね。

それはこの『オカルト研究部』の部員達も例外では無い。七不思議とは総じて学校生活を送る上で必ず一度は立ち寄る場所で起きており、自分達も遭遇してしまう可能性があるからね。もっとも、僕はそういった話は大好物だから、面白がりはしても怖がりはしないけども」


男子学生が楽しそうに話す中、女子学生は無言を貫いていたが、男子学生はそれには反応を示す事無く話を続ける。


「では、そんな七不思議とはどんな物で、遭遇してしまうとどんな事が起きるのか。それを『オカルト研究部』の部長であるこの僕、岡崎おかざき有人あるとが今から君に話してあげるよ。さあ、立ったばかりでは疲れるだろう? この椅子に座るといい」


そう言いながら有人が空いている椅子の内の一つを勧めると、女子学生は何も答えずにゆっくりと椅子に向かって歩き、勧められた椅子に静かに座った。

そして、それに対して有人は満足げに頷くと、手に持っていた本を机の上に置き、女子学生の方へ体を向けた。


「さて、それでは早速お話ししよう。この学園に伝わる“六つ”の七不思議を」

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