エピローグ

「……と、これで七不思議は全部だ。どうだったかな? 七不思議の名に恥じない中々不思議な話ばかりだったろう?」


 有人あるとが得意気な様子で言う中、女子学生は前髪で隠れた目で有人を真っ直ぐに見ながら静かに口を開いた。


「……おかしい。七不思議なのに、貴方は六つしか話をしていない」

「そうだね。でも、その理由は君が一番よく知っているだろう? “七不思議の七つ目”である『怪談の管理者』さん?」

「……私の正体、知ってたの?」

「ああ。だから言ったんだよ、君に会えて良かったとね。自分を除く七不思議を全て知った人の前に一週間以内に現れ、自分の領域に閉じ込めて七不思議を知る者を無くそうとしている。それが君なんだよね?」

「そう。七不思議を全て知った人は生かしてはおけない。七不思議を外に広めてしまう恐れがあるし、そのせいで外部の人が入ってきてしまうのは良くないから」

「君は創立当時の生徒会長だったようだからね。そう考えるのもおかしくない。生徒会長たる者、生徒が安心して生活を送れるようにするのも仕事の一つだからね。まあ、この場合の生徒というのは、七不思議の事なんだけど」


 有人が平然とした様子で言うと、『怪談の管理者』は静かに頷く。


「その通り。だから、貴方も消さないといけない。みんなの平和のために貴方を私の領域に……」

「うーん……それも楽しそうだけど、それは七不思議のみんなの意に反するんじゃないかな?」

「は……? 貴方、一体何を──」


 その時、『オカルト研究部』のドアがノックされ、有人達が揃ってドアの方を向く中、二人の女子学生がドアを押し開けながら中へと入ってきた。


「はあ……やっぱり鍵も掛け忘れてた。もう……アンタ、この部の“部長”なんだから、その辺はしっかりとしてよね?」

「ごめんごめん。えーと、鍵と忘れ物は──あ、あったあった! 良かった……この小説、とても大切な物だから、無くしてたら泣いてたよ」

「そうでしょうね。忘れたのに気付いた瞬間、学校からだいぶ離れてたのに取りに来ようとするくらいだから。でも、こんな時間に来ると、あの話を思い出すわね」

「ああ、『オカルト研究部の幽霊部長』の話でしょ? 顧問の先生が学生だった頃に部長だった人で、オカルトに関する調査を熱心にするような人だったけど、在学中に病気で亡くなったんだよね?」

「そう。でも、実は今でもこの『オカルト研究部』の部室にいて、私達の活動を見守っているっていう話なんだよね。それで、顧問の先生は実はその人と今でも仲が良くて、裏顧問を任せてるとかなんとか……」

「裏顧問か……まあ、会った事無いからどうなのかわからないけどね。さて、それじゃあそろそろ帰ろっか」

「うん。鍵、今度はちゃんと掛けてよ?」

「わかってるってば……」


 そんな会話をしながら女子学生達が部室を出て、続けてドアが施錠される音が聞こえた後、『怪談の管理者』は自分を見ながらニヤニヤと笑う有人に視線を向けた。


「……貴方も幽霊だったのね。まったく霊気を出してないから驚いたわ」

「ふふ、幽霊になってからだいぶ暇だったからね。色々工夫したら出来るようになったんだ。それで、生前は中々出来なかった七不思議の調査をしていたら、彼らと仲良くなれてね。せっかくだから、君にも会いたくてずっと待っていたんだよ。因みに、彼らが言うには、僕は君の領域には引き込まれて欲しくないらしいよ」

「……そういえば、話のところどころで実際に体験したかのような話し方になっていたわね。そういう事なら、私も貴方を領域へは引き込まない。でも、部長というのはどういう事? 貴方は裏顧問なのでしょう?」

「ああ、その事か。たしかに僕はこの部活の裏顧問を務めているけど、それと同時に僕は七不思議のみんなと一緒に作った『裏オカルト研究部』の部長でもあるんだ。そして、よければ君にもこの部活動に入ってもらいたい。どうだろうか?」


 有人からの問い掛けに『怪談の管理者』はふぅと小さく息をついてから答えた。


「……仕方ないから参加しましょうか。私も七不思議を全て知る人が出るまでは暇だし、貴方という変わり者の監視もしないといけないから」

「ははっ、そうかい。それじゃあこれからよろしく頼むよ」

「……ええ」


 月が昇り始め、辺りが夜闇に包まれ出す中、『怪談の管理者』は嬉しそうに笑う有人と固く握手を交わしながら小さく溜息をついたが、その顔はどこか嬉しそうな物だった。

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七不思議の語り部 九戸政景 @2012712

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