翌春

 ちひろの頬がこんなに白いのは、きっと春のせいだ。


 四月の光は白く、まだ少し冷たくて、

 ちらちら、ちらちら、雪のように花びらが降ってる。


「今年の桜も思ったより白い?」


 尋ねると、ちひろは横に首を振った。


「ううん。まだ去年の桜は思い出になってないから」


 三年着た制服は、もう丈が短い。

 卒業証書をもらい、この制服を脱ぎ、新しい制服に着替えたら、

 俺たちはまた少し、大人に近づく。


「ねえ結局桜って、白だと思う? ピンクだと思う?」

「薄ピンクじゃね?」

「身も蓋もない答え」


 降り続く花びらの中、ちひろは笑った。

 その笑顔は晴れ晴れしく、誇らしく、いつも少し哀しい。


「曖昧なことばかり言って、いつか後悔しても知らないよ」


 そしてすぐに俺をひやりとさせる。


 そんなふうに言うのなら、たまにははっきり言ってやろうか。

 その花の色は、ちひろの肌みたいだって。



 〈完〉

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その花の色は、君の 鹿森千世 @CHIYO_NEKOMORI

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