時を超えた想い、つなぐ音楽!

「時を超えた想い」などというのはベタな表現であることは百も承知。だがそれでも、この作品を語る上でこの言葉は外せないと思う。
 私の愛読書の一つである藤沢周平の『風の果て』は、藩政の実権を握った主人公の元に旧友からの果たし状が届き、過去パート(政争の末主人公が勝利するまで)と現在パート(果たし状を受け取ってから旧友の足取りを追い、決闘当日に至るまで)が交互に描かれ、やがて二人の対決に向けて集約していく……という構成を取っていて、私を構成マニアに変えた傑作であるが、本作もそんな私を唸らせる構成になっている。
 ネタバレを避けるために詳細は読んでのお楽しみとするが、過去(第二次大戦下)と現在(今の日本)を1話交互に描くことで、読者を飽きさせない展開となっている。その構成に華を添えるのが、竜というファンタジー要素、そして音楽を巡る二人の女性との関係である。また、過去編の戦時下のフランスについても、重くなっていく空気を丁寧に描写していて、没入感を高めている。
 贅言は不要だ。この作品を無料で読めるカクヨムに感謝しながら、この宝石の輝きを楽しもう!

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