「帰る」ことがもたらすもの
- ★★★ Excellent!!!
第4週を迎えたカクヨム公式企画「お題で執筆!! 短編創作フェス」。今回のお題は「帰る」と、かなりストライクゾーンは広め。前回のお題「つま先」があまりにもニッチ過ぎたことに運営も気付いたのか、今回は逆に広すぎるお題を出してきました。
で、その広いお題に挑んだ本作。東晋の将・桓温は、破竹の勢いで前秦を攻略し、ついに長安を望む「灞上(はじょう)」にまで陣を進める。あと一歩で前秦を降すことができる、しかし周辺の諸勢力は一向になびいてこない。不満げな桓温の前に表れた隠者が、東晋の将に伝えた言葉は……。
「帰る」ということは、「元いた場所に戻ること」。それは安息や安心をもたらす行為であると同時に、状態も元に戻ってしまうというリスクもあります。つまり、「進む」ことで何かを成し遂げようとする人――例えば本作の桓温――にとっては、禁断の行為とさえ言えます。本作はまさに、「帰る」という行為がもたらした結果――単に位置が戻るだけではなく、状態までが戻ってしまうことについて、洗練された筆致で描き出しています。ついでに言えば、「帰して」しまったことについても。
舞台は東晋というドマイナーな時代ですが、歴史的背景が分からなくても、「帰る」行為について考えるのに全く支障はありません。なぜここで「帰る」のか。帰らなければどうなっていたのか。「帰る」という動詞について深く考えたい短編をお探しなら、是非本作をお読みください。