「青春の惑い」を丁寧な筆致で描く良作

本作は自殺を扱っているので、どうしてもそれに目が行きがちだ。
しかし、あくまで私見だが、本作の主要テーマは「青春の惑い」であり、自死は副次的テーマに過ぎないと思う

誰かの歌の文句にあったように、青春時代というのは後から思い出すと美しいが、渦中にいる人にとっては、必ずしも希望に満ちた輝かしいものではない。

もちろん、人にもよるだろう。大いに謳歌する人もいよう。
しかし、そうでない人もいる。

青春の真ん中では、経験不足、知識不足、自己肯定感の低さ、視野の狭さ、戸惑い、不安感、焦燥感、劣等感などに苛まれることも多い。自分にも経験があるのだが、私はこれを「青春の惑い」と呼びたい。

この「惑いの森」から何とか抜け出そうと、若者は悩み、苦しみ、葛藤する。
中には、自死を考える人もいるだろう。

本作の主人公・詩音もまさに、青春の惑いの中にいた。
作者は、詩音の心の動きを、とても丁寧に分かりやすく描いている。
詩音の苦しさが、痛いほど伝わってくる。
良作だと思う。

ただ、私が気になったのは、ユージだ。
彼は成人であり社会人だ。
いくら自分自身が惑いの中にいたとしても、未成年者との接し方は問題含みだった。
たとえ本人にはそのつもりがなかったとしても、外形的要素から、犯罪行為と捉えられる可能性があった。
少なくとも、成人として当然なすべき未成年者保護を怠ったと思う。

現に実社会では、SNSを悪用した卑劣な犯罪が起きている。(自殺ほう助や嘱託殺人、あるいは性的暴行・殺人)

自死はいかなる事情があろうと、肯定的に語られてはならないと思う。
その点、本作は微妙なバランスの上にある。
もしも自死というテーマに惹かれて本作を読む人がいるとしたら、必ず最後まで読み切っていただきたい。

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