愛と平和が世界を変える! サイケデリアとガンジャガールをつなぐ虹色の橋!!

 バシャッ! と廊下に弾痕が広がる。サイケデリアの姿はない。


「――チィッ!」


 舌打ちするガンジャガールはしかし、自らにかかる影に気づいていた。視線が上がる。宙を舞う青いスカジャンのサイケデリア。


「愛と平和のぉ!!」


 ブンッ! とバットが振り落された。ガンジャガールが藻主棒ー豚もすばーとんM五七◯ごーななを横使いに受ける。打音ともに銃身がひしゃげ残弾が零れ落ちた。両者の力は拮抗している。


「魔法少女ぉ……サイケデリア!!」

 

 こめかみに青筋を浮かせ、サイケデリアがガンジャガールを突き放した。すかさず前蹴り。腹に突き刺さるエネルギー。低い呻きを置き去りにしてガンジャガールの躰が放送室に飛び込んだ。猛追。サイケデリアがバットを肩に担いだ。


「マジカァァァル、レインボウバッツ!!」


 銀閃、走る。ローリングス社製の五百ドルしたチタンバットが暗闇とワンダフル・ガンジャえんを切り裂く。打棒は軌道上の放送機材を破壊し、衝撃で逸れ、床を叩いた。

 ガンジャガールが拳を握る。


「愛と平和のぉ……!」


 跳ね起きると同時に振り抜いた。閃く銀光。いくつもはめた指輪は連結式のワンダフル・クロム系工具鋼SKHナックルダスターだったのだ。


「ワン(ダフル)パァーーーーーーンチ!!」

 

 ゴジュッ! とサイケデリアの頬にナックルがめり込む。華奢な躰がぶっ飛び壁に衝突。ガンジャガールが追撃をしかけた。今度は左の指輪も連結、両拳で顎を隠すピーカブーいないいないばあスタイルにて躰を左右に揺さぶりながら腕を振る。

 パッ! と血花が咲いた。右、左、右、右、左――。

 ガンジャガールの猛烈な乱打ラッシュがサイケデリアのガードを打ち抜く。繰り返し、繰り返し、繰り返し、壁に後頭部を叩きつけられ、サイケデリアの意識が遠のいていく。

 最中さなか

 彼女の瞳に映る虹色の太陽に座禅を組むレンイボーパンチパーマのゲーミングおじさんが現れ、チェシャ猫の笑みで口を開いた。


『唾ぁ吐いたったらええんやで』

「はい!!」


 ゲーミングおじさんに言われるがまま、サイケデリアは口に溜まった血をガンジャガールの顔に噴きかけた。


「――うわぁ!?」


 眼鏡と顔を真っ赤に染められガンジャガールがたたらを踏んだ。

 カロン、とバットが鳴った。


「愛と平和の……」


 サイケデリアは右打席の構えで力を溜める。ガンジャガールがパーカーの袖を萌え袖にして眼鏡を擦った。血走る瞳が大きく見開く。血に汚れたレンズ越しに見る。暗闇に輝く虹色の眼光。


「――クソったれ」

 

 ガンジャガールの声が闇に溶けた。

 サイケデリアが渾身の力を込めてバットを振り抜く。


「レインボーアーチ打法!!」


 ゴギャン! と一際おおきな硬い音がし、ガンジャガールの躰が交通事故を思わせる空中その場側方転回を見せ、ドシャリと沈んだ。遅れて落ちるワンダフル・ガンジャのジョイント。火花が散った。

 サイケデリアはバットを手に引きずり歩き、ジョイントを拾った。


「あ、あかん! 愛美ちゃん! カクテルはやば――」


 アルベルタの声は届かない。サイケデリアがジョイントを唇に挟んで深く、深く吸い込んだ。

 

 ぶはぁぁぁぁぁ、と吹き出された煙。


「――あ、あぁぁぁぁああああぁあぁ……」


 サイケデリアがガクガクと躰を揺さぶる。

 その震えは歓喜か。

 悪い方にキマったか。

 固唾を飲んで見守るアルベルタの前で、サイケデリアがバカでかい声で言った。


「これ、めっちゃくちゃいいですよ! 望咲みさきさん!!」


 い、良い方やった……にゃ。と安堵するアルベルタ。

 呼びかけられたせいか、ガンジャガールが躰を起こした。

 はっ、とアルベルタは我に返る。


「愛美ちゃん! まだ生きてるにゃ!!」


 まだ続くのか。死闘が。そう思われたが。

 しかし。


「大丈夫ですよ、アルベルタさん」


 ガンギマリ声で言うサイケデリア。

 同時に。


「あああああ! 違う違う違う! お兄ちゃんはそんな人じゃない!!」


 ガンジャガールもとい黒羽根望咲が叫んだ。


「お兄ちゃんはクリーンなんだ! クリーンラッパーなんだよ! 薬物なんか大っ嫌いなんだって! だから、だから私も!!」

「――バッドトリップにゃ!」


 魔法少女の心を過酷な環境から守るため、使い魔は少女に合わせてカバーストーリーをつくり、各々が取り扱うマジカル・アルカロイドやワンダフル・カンナビノイドによるマジカル(ないしワンダフル)ブレインウォッシュを行う。現行法をマジカル脱法すべく魔法的に組成された薬剤は強力極まりなく、通常の手段で洗脳を解く方法はない――はずなのだが。


「な、なんで……解けようと……?」

「マジカル・リゼルグ酸ジエチルアミドですよ、アルベルタさん」


 サイケデリアが穏やかな顔で言った。


「見てください。望咲さんの頬を」

「頬……? あっ!」


 見れば、望咲の頬にはサイケデリアが噴いた血反吐にまじり、ルーン文字の刻まれた青く小さな紙片が張り付いていた。


「まさか、血を吹きかけたのは……!!」

 

 アルベルタが驚愕の表情でサイケデリアを見上げる。


「望咲さんを愛と平和へ導くために! マジカルLSDを貼っつけてやりました!」


 言って、何が面白いのかゲラゲラ笑いながらワンダフル・ガンジャを吹かした。

 ――まじかー……。と、アルベルタは望咲を見やった。


「あかん……抗争にゃ。知らんうちに担当ふえたにゃ……」


 小さな双肩にのしかかる事後処理の圧。目眩がしそうだった。

 望咲が叫ぶ。


「お兄ちゃんはけーさつにも協力してるんだ! クリーンなんだ!!」

「目を覚ましてください! 望咲さん!」


 サイケデリア――いや、今はもう同級生の夢見愛美として叫んだ。望咲の後ろ頭を引っ掴み、力任せに顔を上げる。


「クリーンなラッパーなんて! いるわけない!!」


 ゴジャッ! と愛美は望咲の顔面を機材に叩きつけた。


密告チンコロの報復が怖いだけです! 市民の通報義務を果たさないで何がクリーンですか! あれはプロレス! みんなで見る夢なんですよ!!」


 何度も。何度も。何度も叩きつけた。

 やがて壊れた眼鏡が床に落ちたとき、望咲が呟いた。


「私……何…………を?」

「――っ! 望咲さん! 戻ってきてくれたんだね!?」

 

 愛美が望咲を抱きしめた。


「あんた、は……?」

「私、夢見愛美! 愛と平和の魔法少女、サイケデリアだよ!」

「魔法少女……?」


 呆然とする望咲に、愛美はバットを天高く掲げて見せた。


「レインボーパワー! オーバーライド!!」


 一拍の間。


「もう元通り! 望咲さん! 友達になろう!?」


 無論、何も戻ってはいない。これからアルベルタが事後処理に走るのだ。

 望咲が呟く。


「私……いいの?」

「もちろん! ほら、一緒に楽しも!」


 言って、愛美は望咲の口にワンダフル・ガンジャを吸わせた。

 ぷこっと吹きだす煙。

 望咲が太陽みたいな笑顔になった。

 愛美は言った。


「ね。望咲ちゃん、ネイル見せてよ。それどこでやったの? 茸とか切手とか、すっごく可愛い!」

「ああ、これ……? ハンドサイン理解できないバカと取引するのに――」


 マジカルリゼルグ酸ジエチルアミドが二人の間に愛と平和の虹橋レインボーブリッヂを渡した。

 戦えサイケデリア。

 市場からダークネス・シャブを駆逐するその日まで、愛と平和と虹の輝きで戦うのだ!

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魔法少女サイケデリア λμ @ramdomyu

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