リハビリ状態の低速度ながら書けているのと、逆にそれくらいしか速度がでないのは今読んでいる本の文体が影響しているからではないかと思ったのです。
そう、私は文体強度が弱いので読んでる作品に引っ張られちゃうんですね。
じゃあさっさと読み切っちまえ!
というわけで、ビル・ビバリー[作]熊谷千寿[訳]『東の果て、夜へ』を読みました。
思ってたのと違うけど面白かったー! のでネタバレ注意ー。
えーと、ハヤカワミステリ文庫ですからもちろんミステリなんですが、全然ミステリじゃないミステリでした……? あとあらすじにクライムノヴェルって書いてますしクライムするんですけどメインはロードムービーというか、いやビルドゥングスロマンというか、私的にはというか日本風にいえば純文学ジャンルのミステリです。私は何を言っているんでしょうかと思う反面、本来的な小説というか、いわゆるジャンル小説として書かれていないっていうイメージですね。ジャンルごたまぜ的な意味で私と作風がちかい(暴論)!
ただこちら、面白さを理解するためにはマインドセットがだいぶ重要となっております。
主人公はロサンゼルスのスラム街、箱庭(ボックス)で働く十五歳の黒人少年。仕事と言っても内容は麻薬の取引所を見張ることです。父親は不明で、母親は薬のせいなのか何なのか壊れ気味で、居場所不明の13歳の弟は狂犬じみた殺し屋です。
そうなんです。まずこの作品は、小汚ぇ倉庫の片隅に不法滞在してダンボールと毛布を被って寝て貯めた雨水で顔と首を洗いフライドチキンとコーラで空腹を満たし路地に立ってヤク中がやらかさないように見張る生活があとどれくらい続くのか分からない黒人の少年イースト、という強烈な状況に接近しなくてならないのです。
……しんど! しんどいよイーストくん!
またこのイーストくんのこれまでの人生が箱庭(ボックス)で完結してるので世界観がクッソ狭く生き残るためにクソ真面目でいなくてはならず弟が六歳の頃からバチクソヤバイガキであるためにすでに人生を諦めているというか老成しています。
しんど! しんどいよイーストくん!(二度目)
そんなイーストくんは仕事でしくじり職場であり見張るべき場所である家(麻薬取引所というか大麻カフェ的な所)を失い、代わりにギャングのボスである叔父から裁判で邪魔な判事を殺してこいと命じられるのです。持ち物はなし。仲間はインテリデブ、脳筋最年長、クソマジメ少年イースト、お前マジ生まれながらのギャングヤンケな弟さん十三歳。移動手段は車です。LAから陸路でウィスコンシンまで行けってさ。
んんんんぅ、最低2000マイル!!(二万じゃなくて良かったね!)
全三部で第一部はひたすらしんどいスラム生活72ページ、長い長いクライムロードムービー250ページ、ここまでの全てが絡み合って凄まじい読後感を生み出す第三部110ページとなっております。
文体は……いわゆる三人称のハードボイルド文体といいましょうか、LAの空気を思わせるカリッカリに乾いた短文を叩きつけられことで一般語彙の羅列なのにポエトリー出てくるっていう正統派?(ヘミングウェイ寄り)ハードボイルドって感じです。正直、呼吸があってくるまではだいぶ苦労しました。でもこれがだいたい中盤くらいのイーストくんが精神的にも肉体的にも参ってきた頃合いで呼吸があってきまして、そこからの絶望的息切れ追体験はマジ純文学っぽい良さがあるエンタメしてます。そこからの第三部とか、感情移入の度合いとか状況の理解度によっては感情がぐっちゃぐちゃにされます。飛ぶぞ。
というわけでお気に入りポインツ!
作者のビル・ビバリーさんが日本で言うところの純文系に相当するからでしょう、ハードボイルド的な文体が醸しだす暗闇の底から一生でられないのが確定している少年な感じがヤバイです。希望がどうとか諦めるなとか以前にそうとしかならなかった感が出ているんです。読みにくいのは読みにくいんですけどね。
お気に入りポインツ2!
原題のドジャース。ええ。LAだから白人の好きな野球チームのユニフォームをカモフラージュに着させられるってところからきているんですが、このドジャースっていうのが身を隠すとか躱すって意味のドジャースとダブルミーニングです。さらには主人公イーストが西海岸から東(イースト)に旅をするという。というのも既存のロードムービーは白人が西に行くというコンセプトが中心で~みたいなのが好きな人はニヤニヤしてしまうかもしれません。私は随所に挟まる小ネタに笑いました。
お気に入りポインツ3!
ミステリ部分。読んでる内に何がどうミステリなのか分からなくなってくるんですが、終わってみるとミステリだったわってなります。でもこれミステリとして出しても売れないというか売りにくいような……?
お気に入りポインツ4!
ごっついネタバレになるので割愛です。ただ、このお気に入り具合は面倒でも飛ばさずに頭から最後まで通読しなければわからないと思われます。ダルいけど、作中のイーストはもっとダルい思いに耐えています。このシンクロ具合も凄いですよ。
ここから逆に気になるポインツ1!
これ原題が『ドジャース』なんですが、邦題が『東の果て、夜へ』なんですよ。もちろん意図があってそうなってるんですけどこう、そう訳されると本文の方の訳はどんな塩梅ですかね? みたいな疑念が少し……これ本当にこういう文体なの? みたいな疑問とか。別に訳文でもじゅうぶん面白いのでいいっちゃいいんですけどね。
気になるポインツ2!
お気に入りでもあるけどミステリ部分については気になっちゃいますね。色々と思う所ありますが、まあ日本はミステリというと新本格をイメージしがちだけど海外の主流はサスペンス型っていうやつですからね。仕方ないね。あとアメリカミステリのオチはこのやり方というか演出方法が多いという偏見があります。
気になるポインツ3!
私はいいけど慣れない人にとってはこれ超絶に読みにくいかと思われます。私だって過去に何度もヘミングウェイを読み返していたから読めたというか耐性ができていただけでして、慣れない人は本当にダメだと思います。
まとめ……どう読むかというか、どう楽しむかというか、そこの意識付けがとても大切になってくる作品でした。
いわゆるエンタメ系のハラハラドキドキではないですし、ロードムービー好きにとってもイベントは極小です。ただただ無常というか、無情というか……いわゆる読まねば分からん! 読んでも分かるとは限らんが! というタイプの作品でした。私は好きです。ただ読みにくいので繰り返し読むかという怪しいです。あとパワーあるタイプの文体なので、創作するときに読んでいると文体が弱い人は影響されます。たぶん。
他は、これ絶対に逃げ出せない抜け出せないスラム黒人少年をどう感覚するかが勝負みたいなところがあるので、日本人には若干ハードル高いかもしれません。でも一読の価値はある。そんな感じでしょうか。
明日のラッキー思いつき嘘知識
『近年ネットで使われているメスガキ概念の発する『ざぁ~こ♡』とは『雑魚』ではなくMotoGPライダー、ヨハン・ザルコ(Johann, Zarco)のこと。メスガキはザルコのファンで『頭スカスカ♡』は推しポイントの一つ』