ワンダー・ジャマイカの使者! ガンジャガールとワンダフル・テトラヒドロカンナビノール!!

 廊下に響く金属音。銃声。愛と平和を求める叫び。濃厚な鉄錆の匂いとともに虹色に輝くラブアンドピースの精神が広がっていく。


「素敵! 素敵です! アルベルタさん! 背中に翼が生えたみたい!!」

「――ほうじゃあ、ワレェの背中は昇り龍じゃけぇ」


 高揚する愛美の声に呼応し、彼女の首に巻き付くようにして寝ていたアルベルタがちらっと瞼をもちあげた。フレーメン反応顔。一瞬で意識が覚醒した。


「にゃっ……これは……!」


 長廊下に延々と続く惨劇の残滓。首や腕や足が変な方向に折れ曲がるガンジャガールズ。頭骨を砕かれ眼球を放り出させられた女性徒。関節が十も二十も増やされた教員ども。死んでいるならまだいいほうで、耳にこびり付くようなうめき声は、彼女らの痛苦を色濃く表す。

 床に、壁に、天井に、鮮血によるアートワークを拵えながら、サイケデリアが疾駆する。


「逃げないでくださーい!!」


 バララララン! と宇治抹茶十うじまっちゃてんからマジカル九ミリパラベラムが放射され、かろうじて逃げ延びたであろう女性徒の背中を穴だらけにした。サイケデリアの躰が加速する。倒れる女生徒を盾にガンジャガールズが顔を出す。右手を振り上げ何かを投げた。


「――あれは! 愛美ちゃん! 手榴だ――」

 

 言い切るより早く、キュキッ! とサイケデリアの上履きがゴム底を鳴らした。右手を下にレインボーバットを握る。左打席の構え。コンッ、とマジカルグレネードが床を跳ねた。


「――フュシッ!!」


 サイケデリアは鋭く息を吐きバットを振り出す。やや泳がされ気味の体勢。しかしマジカル・リゼルグ酸ジエチルアミドにより感覚器の異常過敏化を促された躰が本能でスイング軌道を修正する。後ろ手を離しながらも重心を残し気味に――、


「拾ったーーー!?」


 驚愕するアルベルタの眼前で、サイケデリアのバットが手榴弾を捉えた。


ガッ、キーーーーーーーン!!

 

 と、鼓膜を震わす打音を残し、手榴弾が打ち返された。変態的な流し打ちレフト前である。手榴弾は廊下の壁にぶち当たり、跳ね、天井を叩き、ガンジャガールズの元へ戻った。

 爆音。

 女生徒もろとも四肢をバラバラに吹き飛ばされて血煙と化した。

 

果物パイナップルの差し入れは間に合ってまーす!!」


 グチャ! と、サイケデリアの上履きが降ってきた髪の毛つき頭皮の一部を踏みにじった。


「ま、愛美ちゃん?」


 アルベルタはドキドキしながら声がけした。キマリすぎている気がしたのだ。

 サイケデリアはしかし、晴れやかな笑顔で応えた。


「素敵ですアルベルタさん! 不思議な動物さんが一杯います!!」

 

 叫びつつ、手早く宇治抹茶十の予備マガジンを回収していく。

 ああ、そうか。そういうことか。とアルベルタは悟った。サイケデリアの目には吹き飛んだり折れ曲がったり腕とか足がもげたりしているむくろの山が魔法の世界の異世界動物に見えているのだ。

 にゃらば、仕方あるみゃい。


「そうだにゃ! 愛美ちゃん! 愛と平和の動物園だにゃ! 楽しいにゃ!」

「はい! 私、感じます! アルベルタさんがくれた大宇宙のチャクラを!」

 

 ――にゃにそれ怖い。けど言えにゃい。

 サイケデリアは駆ける。ドン引きの使い魔を肩に乗せ、ガンジャガールが潜む放送室の扉の前に滑り込む。すぅ、と大きく息を吸い、叫んだ。


「愛と平和が理解できないやつは死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 両手に構える宇治抹茶十が火を吹いた。暴力的火力が一瞬で扉を蜂の巣にする。弾切れ。サイケデリアはマガジンをリリースすると同時に銃を手放し、神速をもって道中回収しつづけた予備マグを引き抜き空中リロード。左右の銃を寝かせて交差させるように持ち替え、それぞれのボルトを互いに引っかけ次弾を送る。吐息。


「アハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 乱射。銃声と爆炎、煙が、排莢された真鍮の転がる音と混じり合い、虹の輝きを放つフラクタルサウンドとして夢の太陽に反響こだまする。固く閉ざされた心の壁と扉が、止むことのない永遠の愛と平和を受け入れ、ついに開いた――。

 無論、サイケデリア視点である。

 バキン! と最後の予備マグが床を叩いたとき、二丁の宇治抹茶十は銃口を赤熱させ大気を焦がしていた。扉はもはや跡形もなく、壁はその用をなさない。もうもうと立ち籠める煙に鼻を動かし、サイケデリアはバカでかい声で叫んだ。


「この甘い匂い! 愛と平和の匂いです!!」

「……にゃ? 甘い匂い?」


 呆れ果てて脇にのけていたアルベルタも鼻を動かす。正しきフレーメン反応。おかしい。マジカル九ミリパラベラムに仕込まれたマジカル・ニトロセルロースはどちらかといえば酸っぱい匂いを残すはず。だが、事実、サイケデリアの言うように、猫と化した鼻に甘みを感じる。


「――愛美ちゃん! ワンダー・ジャマイカのワンダフル・ガンジャ臭だにゃ!」

「いい匂いですねぇ!」


 ――あかん。また噛み合わんなったにゃ。動揺するアルベルタ。

 シャコン、と室内からポンピング音が聞こえた。

 伏せるサイケデリア。爆音。すぐ後ろの壁に大穴が開いた。


「豆撒いてんじゃねぇぞクソガキァァァァァァ!!」


 虹色の響きをもつ可愛らしく邪悪な怒声が轟いた。上履き。肌色の透ける黒ストッキング。紺のプリーツはセーラー服の証か。だがグレーのパーカーを着込んでいる。目深にかぶったフードから水平に突きでた深紫のキャップのつば。黒縁の四角い眼鏡の奥で、丸い瞳が真っ赤に血走っていた。ガンジャガールだ。


「……ブリブリだにゃ」

 

 アルベルタが唖然として言った。


「……可愛い!」


 見えているものが違うのかサイケデリアがクソデカ声で呟いた。

 ガンジャガールはゴツイ銀環シルバーリングをいくつもはめた左手指でキューバ葉巻を思わせるゴン太ジョイント――紙巻きワンダフル・ガンジャをつまみ、深々と吸い込んだ。鼻と口からもうもうと漏れる濃密な煙。咥えガンジャでショットガンをポンプし弾を送った。カロン、と響く空薬莢の音。


「私にゃ黒羽根くろはね望咲みさきって名前があんだよ!!」


 ガンジャガールの藻主棒ー豚もすばーとんM五七◯ごーななが火を吹いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る