少女は恋をして花開く―― たとえ古代でも人の心の本質は変わらない

奈良時代を舞台にした恋愛小説です。
古代日本の素朴な美しさが緻密に描かれ、キャラクターたちも皆いきいきとしています。

歴史物ですが全く難しくないですよ!
この作品で展開されるのは、あくまでヒューマンドラマ。
人と人とのつながり、心の動き、交錯する思い――そうした普遍的なものです。

しかし奈良時代ゆえの厳しさもあります。
現代日本では決してあり得ない、人権が蹂躙される様も直視して描かれています。
それゆえに「暴力描写有り/性描写有り」となっていますが、今作のリアリティには必要な描写でしょう。
決して、そうした激しい描写が目的の作品ではなく、美しい文体こそが白眉。ただ厳しい時代背景からも目をそらさずに描かれているというだけです。

万葉集の世界を思わせる、たおやかな言葉遣いや古代の風俗などに目を奪われたレビューになってしまいましたが、一番の魅力は最初に書いたようにキャラクターです。
応援したくなるかわいくて魅力的な女主人公「古志加(こじか)」を筆頭に、可哀想で胸が痛くなる母、かっこよくて好きになってしまいそうな青年、小憎らしくてぶっ飛ばしたくなる女など、色とりどりの人物が咲き誇っています。

彼らの織り成す豊かな物語に、ぜひ、ひたってみてください。
35万字を超える本作、読む前は長いかと思いきや、引き込まれてあっという間でした。
読み終わったあとも、この世界から去りたくなくて、スピンオフ短編を読みに出かけてしまうこと請け合いです!

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