第3話 古い時報塔

 次の日の朝も霧は晴れず、女将の話ではこの様子だとクリブリーの港から船は出ないだろうとのことで仕方なくもう一泊することにした。


「ハルキさん、昨日の夜もやっぱり聞こえましたよね? 鐘の音」


「ん? 聞こえなかったけどなあ。女将さん、この街の教会は?」

 食堂で朝食をとりながら尋ねる。


「え? この町に教会はないけどねえ、一番近いのはロッキングの教会だねえ、鐘の音なんてとんと聞いてないねえ」


「だよねえ。そんなとこの鐘の音はさすがに聞こえないわなあ」


「気になるっすねえ。俺、ちょっと調べてみるっす」


「お前も物好きだねえ。まあ、好きにすりゃあいいけどな、どうせ暇だし」


 というとニッタは町に出て情報収集を始めた。


 ――――――


 三時間ほどするとニッタが戻って来た。


「どうだった?」

 と聞くとニッタは首を横に振り


「いや、どうも何もなさ過ぎて逆におかしいんすよね」

 と言いながら部屋に入って来て椅子に腰かけた。


 ニッタの話によると、この町に住んでいる人々のほとんどが漁業で生計を立てており、あまり他の町との交流がないのだという。


 町の外れにある丘は古くからの墓地となっていて、その奥深くに昔は立派な時報塔があったという。


 聞き込みをした住民全員が鐘の音を昔聞いている、しかし一人として今は鐘の音は聞いていないという状況らしい。


 ニッタは地図を指差しながら


「ここっすね」

 と確認した。


 ハルキは腕組みをして何かつぶやくと、


「じゃあちょっと行ってみっか。って、そもそも俺には聞こえないけどな。その時報塔ってのが気になる」

 と言って立ち上がった。


 二人は宿を出ると町の中心部から少し離れた丘の上へと向かった。


 墓地を抜けるとすぐに大きな木に囲まれた古い建物が見えて来た。

 ニッタは小走りで建物の前まで行くと、扉に手を掛けて引いた。


 ギイイイイイィィィィ……


 という音と共に開いたドアの奥を見ると、そこは真っ暗な空間が広がっていた。


 ニッタが懐中電灯のような魔道具を取り出すとスイッチを入れ、暗闇の中で光る魔道具の明かりを頼りに二人で中に入る。


 天井は高く壁に階段が連なっており、上にはたくさんの窓があった。本来は窓から差し込む明かりが室内を照らしていたのだろうと想像できた。


 ハルキはあたりを見渡したが特に変わったところはなく元々時報塔だった、ただの廃墟のように思えた。


 入り口から正面の壁まで歩いて行き壁に沿って一周すると、上に登る階段とは別に地下へと続く階段があり、下からは冷たい空気が流れてきていた。


 時報塔に地下施設は必要ないはず……


 二人は顔を合わせてうなずくとゆっくりと降りて行く。


 降りた先には木製の重厚な両開きの扉が待ち構えていて、そこを開けると中は大きな広間になっていた。


 ニッタが魔道具の灯りで周囲を照らすと、床に何かが落ちているのが見えた。


 それは黒いローブを着た骸骨であった。


「ハルキさん、これって……」

 不安そうにニッタが言う。


「ああ、間違いねえな。こりゃあの法衣だ」


 ハルキが骸骨が着ている法衣を手に取ろうとすると


バンッ!



 突然後ろの扉が勢いよく閉まる。


 驚いて振り返るといつの間にか法衣の骸骨に闇のモヤが集まり、骸骨の瞳に赤い光が放たれ二人を睨みつけ、赤い目から白い硬質の物質が広がると顔を覆い、白い仮面に変わる。

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