イレイサー:File01_バグトンの見えない鐘:指令があれば何でも消します、「憑き者」を「ない物」に。それがイレイサーのお仕事です。
UD
第1話 鐘の音
ゴ―――ン……
ゴ――――――ン……
深い深い霧の中、どこからともなく時を告げる鐘の音が小さく聞こえる。
「……おい、ニッタ。なんでこんなことになってんだ?」
「すごいっすねえ、霧。なんも見えないっすねえ、これじゃあ進めないっす」
「そうじゃねえよ。いや、そうなんだけどさ。霧はすごいよ、そこじゃないんだよ。どうして俺たちはこんな所に立ち往生してんのかって聞いてんの!」
「そりゃあ俺がどっちに進みます? って聞いたらハルキさんが島なんだからどっちに行っても港に着くだろうって言ったからでしょ」
「お前その時ガンガンに音楽を鳴らしてたろ。デビュー五十年の歌手の歌、しかもデビュー曲から順番に! あれでげんなりしてたんだよ!」
「当てましょうか?」
「ん?」
「好きな曲、当てましょうか?」
「話が変わってんだろ? なんでこんなところに立ち往生してんのかって言ってんだよ」
イレイサーであるハルキとニッタは帝国北西にあるミャスト島ロッキングの町での活動を終えクリブリーの港に向かう途中、霧に包まれ立ち往生している。
「仕方ないじゃないっすか、この霧ですもん。しっかし今回のは結構な偽物でしたねえ」
「ああ、ほんとな。やっぱりガセだったじゃねえか。ツノダさんの言うこと聞くとろくなことにはならねえなあ、ちくしょう」
「まあ仕方ないっすよ、それが俺らの仕事なんすから。プロデューサーも悪気があったわけじゃないっすよ」
「なにが、『今回はきちんとイレイスしろ!』だ。んでなんだよあの遺物は。明らかに年代が若かったろうが。ちゃんと下調べしてから俺たちに回せって。なあ」
今回の偽物の「遺物」のせいでニッタの方はあまり考えていないようだがハルキはご立腹だ。
後部シートにふんぞり返りぶつぶつ言っている。
「ハルキさん、なんか鐘の音が聞こえません?」
「ん? 気のせいだろ。聞こえないよ、お前がかけてる歌手の歌しか」
「そうっすかねえ?」
「そうっすかねえ、じゃねえよ。なんとかしろよ、どうすんだよ、このままじゃ俺たち失踪者扱いされちまうぞ」
ますますハルキはイライラしている。
「えーっと、『春よ来ぬ』でしょ?」
「ん?」
「好きな曲、『春よ来ぬ』ですよね?」
「べ、別に好きじゃねえよ」
「うっそ。でも口ずさんでましたよね?」
「中には好きな曲もあるよ…… って、あー、もう! どうせ魔導車動かないしな、おいニッタ。ちょっとジュース買ってきて。十秒で」
「ええ? この霧の中で?」
「はい、十! 九! 八! ……」
「はーーーい!」
と魔導車を飛び出すニッタ。
しばらくしてニッタが戻ると
「ハルキさん、この先に町があったっす! もう遅いし、今夜はそこに泊めてもらいません?」
二人はバクトンの町に辿り着いた。
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