第2話 イレイサー

 バクトンの町は帝国の中でも辺境ミャスト島内にあるため人口も少なく、大きな店などもない。かろうじて旅人を泊める酒場、食事処を兼ねる宿屋が一軒だけ存在する。


 その宿屋でこの町の名物と言われた魚料理を食べ、ニッタは上機嫌で酒を飲んでいる。


「助かったっすねえ、宿屋があって。いやあほんとこういう悪運強いっすねハルキさんは」


「悪運ってなんだよ。まあ飯にありつけたのは助かったけどな」


「しっかしあれが偽物だとは思わなかったっすねえ。プロデューサーの話だと結構ほんとっぽかったのに」


「ツノダさんに騙された感しかねえな、他の奴らはどこだって?」


「ああ、モートンで奇跡の剣のイレイスって言ってました」


「嵌められたな、ちくしょう」


「仕方ないっすよ、ハルキさん。遺物まで「ない」物にしちゃうんすから。プロデューサーがいつも言ってるでしょ? 『過去の『遺物』(魔道具、武器や防具)の中に稀に「ある」者が憑りついている。イレイサーの仕事はの存在を消して、「憑りつかれている遺物」を「通常の遺物」に戻すことだあ』って」


「うるさいよ、お前からツノダさんのセリフなんて聞きたくもないよ。なにがカタデリー信仰の遺物だ、大ウソつきめ。ロッキングの町にはカタデリー信仰のカの字もなかったじゃねえか。だいたいなんでこんな島に教団の重要施設があるんだよ、そんなわけねえよなあ」


「でも信じたからこっちに出向いたんでしょ?」


「信じたっちゃあまあそうなんだけどな。仕方ないだろ、あのおっさん。ハルキハルキって何回も見つめながら叫ぶんだよ。しっかしどうりで今回は国家情報保安局が出張ってこないはずだな」


「まあいいじゃないっすか、偽物でも報告報酬は出るんですから」


「はぁ。お前はいいよなあ、いつもお気楽で」


 そんな話をしていると、宿の女中がニコニコしながらテーブルの上に皿を置くと お連れの方は本土の方ですか? と尋ねてきた。

 ニッタはグラスを持ったまま振り返ると、 ああ、そうっすよ。

 と答え、 ハルキは、ああ、とだけ答えた。


「めったに都会の人は来ないんですよお」

 と色目を使ってくる。


 二人は島の人間とは明らかに違う風貌だ。ハルキは紺のスーツを着てネクタイの代わりにスカーフを巻き、薄いサングラスを掛け、黒い手袋をはめている。ニッタは全身茶色のスーツに身を包み、ハンチング帽を被っていた。


 ハルキが、「そう」とだけ答えると、 女中はなぜか、「まあ」と声を上げて顔を赤らめた。


 そんなこともありながら、明日には霧も晴れ、港に向い帝都に帰るのだろうと何の疑問も持たず二人は眠りについた。

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