第9話 霧消

「ほんとひどいっすよ! 撃ちましたよね? ハルキさん!!」


「ちゃんと外しただろ? あの化け物狙ったに決まってんじゃねえか。お前、俺のこと信じてないの?」


「いや、そりゃ信じてますけど。でもハルキさん、人を騙くらかす天才じゃないっすか!」


「なんだよ騙くらかす天才って」


 イッコとホリはハルキが撃った弾丸がニッタを貫通するのを見ていた。しかし目を覚ましたニッタには傷一つなく何があったのかも覚えていないようだった。


 時報塔を出ると鐘を回収したホリとイッコは、まあハルキのやる事だから、と言って見えるようになった鐘を回収し、呆れたように去っていった。


 ――――――


 ハルキとニッタは港に到着する。


「ハルキさん。結局あの鐘は何だったんすか?」

「ああ、あの時報塔な。時報塔じゃなかったの」


「ん? どういう事っすか?」

「地下施設があったろ? あれな、たぶん実験施設」


「実験施設?」

「ああ。たぶんカタデリー信仰の魔獣復活とか再生とかのな」


「そんで猿っすか?」

「たぶんな。他にも動物や人体使ってな。んで、周りに悟られないように時報塔って事にしといたんだろうな」


「で、あの鐘に憑りついた、と」

「ああ。まあ見えなかった鐘も見えるようになったし、とりあえずはいいだろう。鐘はイッコが持って帰っちまったし、情報は国家情報保安局がコントロールすんだろうけどな。ま、どうなったか教えてくれるとは思えねえけどな」


「そっかあ。あ、あの猿の左肩から糸がたくさん伸びてきてたでしょう? あの時、いっぱいいろんな話が聞けたんすよ」


「ん? 話?」


「そうなんすよ。糸一本いっぽんから、痛いーとか苦しいーとか辛いーとか。鐘からも聞こえた気もするし。あんなの聞くと俺も辛いっすからね。ハルキさんがあの猿を撃ってくれたから助かったっすね」


「お前……」

「どうかしたんすか?」


「いや。何でもない。あ、そういえばさ、この島の名物って何だっけ?」

「えーっと確かなんとかって魚の料理でしたね」

「そっか、あ、お前、それ買ってきて。ツノダさんへのお土産にすっから」

「ええ? 今からっすか?」


「十秒でな。はい十! 九! はーち……」

「はーい!」


「急げよ! 船が出ちまうぞ!」

「はーーーーーい!!」


 そう言って走っていくニッタの向こうに、霧が晴れた青空と海が広がっている。


(完)

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イレイサー:File01_バグトンの見えない鐘:指令があれば何でも消します、「憑き者」を「ない物」に。それがイレイサーのお仕事です。 UD @UdAsato

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