第8話 鐘の化け物

「なんだ!? どうした、ニッタ!」


「わかんないっす〜。なんか出てきましたよお、ハルキさーん」


「おい、下がれ! ニッタァ!」

 ハルキがニッタに駆け寄りながら叫ぶ。イッコとホリは戦闘態勢に入る。


 見えない鐘の周りに黒いモヤが集まり形を成していく。それは人のようで人ではない「憑りついた者」だった。


 頭は猿のようだが体は毛深くゴツゴツとした獣そのものの姿で手には巨大な金棒のようなものを持ち左肩に鐘がプロテクターのように張り付いている。


 イッコはその異形の姿を見て絶句する。


 黒い影はゆっくりと立ち上がり、辺りを見回すと


 グルルルゥ


 と低くうなり、ホリと目が合う。

 すると次の瞬間、ホリに向かって突進して行く。


 ホリは冷静にそれをかわすと右手に持った短剣を振り下ろす。


 キンッ!


 甲高い音がしてホリの攻撃が弾かれる。

 その衝撃に一瞬体勢を崩すがすぐに立て直し、今度は逆手に持った左手の短剣を突き刺す。


 キンッ


 と音を立てて攻撃が弾かれ、ホリは吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 イッコは急いでホリに駆け寄ると体を起こし抱き抱える。


 ホリの口元から血が流れ出ている。

 意識はあるが腹部を強く打ったらしく痛みに耐えている。


 イッコがホリの肩を抱きながら立ち上がると猿がこちらを向き、イッコと目が合い、ニヤリとする。


 その瞬間、イッコは背中に強い衝撃を受けそのまま壁に押し付けられる。


「っち! おいニッタァ!」


「はーい」


「お前、お前はそこで鐘見張ってろ!」


「はい、わかりましたぁ」

 ハルキはイッコの元へ走りながら魔銃をかまえる。


 そして狙いを定め引き金を引こうとしたが、突然目の前に現れた影に邪魔をされる。


 ハルキが影に蹴りを入れ、影を引き離した隙にイッコの元に辿り着くと、全身を青く光らせたニッタが猿の前で手をかざしている。


 猿の左肩の鐘からは無数の糸が伸びていて、それがニッタの手の周りで円を描いている。


「なに? あの子……」


 イッコが呟くがニッタは集中していて聞こえていないようだ。

 ハルキは舌打ちをしてニッタを睨む。


 ニッタが目を閉じて何かを唱え始めると足元を中心に白い魔法陣が広がり、やがて部屋全体を覆い尽くしていく。


 ハルキは諦めた顔をしながらニッタの後ろに回り込み、ゆっくりと引き金を引く。


 魔銃から発射された青い弾道がを打ち抜くと、すさまじい青い光が放たれ銃弾が猿の化け物の左胸を打ち抜く。


 同時に、イッコの背後の影が霧散し、それと同時にニッタの体が傾く。


 ハルキは倒れそうになるニッタを受け止め、床に寝かせる。




 ゴ―――ン……



 ゴ――――――ン……




 音を立てながら鐘が宙を舞う。


 猿の怪物が絶叫を上げ悶え苦しみながら霧散していく。


 鐘が地面に落ちると同時に世界が元に戻る。

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