第7話 見えない鐘

 次の日、ハルキとニッタはいつも通り朝食を食べ終えるとすぐに宿を出た。


「霧がすごいっすねえ。今日も船は出ないかもっすねえ」

「ん? お前、どこに行くつもりなの?」

「え? 帰るんですよね?」

「なに言ってんだ。時報塔に行くに決まってんだろ?」

「ええっ?! そうなんすか?」


 そう言うとニッタは渋々魔導車を時報塔へと走らせ、何事も無く無事到着した。


 ハルキは時報塔の最上階を見上げながら


「また面倒なことにならないといいんだけどなぁ」

 と小さくつぶやき、ニッタを呼んで階段を登っていった。


 最上階の扉を開けると、そこには昨日と同じ格好をしたイッコが正面に立ち、両手を腰に当て、入ってきた二人を見て


「あら、おはようございます。やっぱり来たんですね」

 と言って呆れたように微笑んだ。


 その瞬間、イッコの後ろから一人の男が飛び出し、イッコを守るように前に出ると、ニッタに切りかかろうとする。


「ホリさん、もういいよ」

 ハルキが言うとスキンヘッドの男はイッコの横に控え


「ちっ、ハルキかよ」

 と呟いた。


「んで? あれか?」

 とハルキが上を指差すとイッコは短く、ええと応える。


 時報塔の最上部には元々鐘が設置されていた形跡があるが今は崩れ、空間を塞いでいる。


「あれっすかぁ。そっかあ、あれが鳴ってたのかあ。あれ? でもどうやって鳴ってたんすかねえ?」


 と、全く別の方向を見てニッタが言う。


「ん? なんて?」


「いや、あの鐘っすよ。そこに置いてあるのにどうやって鳴ったのかなぁ? って」


「どこだ?」


「え? どこってやだなあハルキさん、そこにある……」


「どこだよっ!」


 と語気を荒げると慌てて部屋の隅を指差す。


「どうやらニッタ以外には見えてねえみたいだな。ニッタ、それ運べそうか?」


「どうっすかねえ? 鐘だけに」


「くだらないこと言ってんじゃないよ、どうなんだよ?!」


「デカいですもん、あれ。無理っすねえ」


「無理なのかよ」


「二人とも、いい加減、真面目にやってください」


 しびれを切らしイッコが言うとホリが無言で威圧してくる。


「わかったよ、やりゃあいんだろ、やりゃあ」

 ハルキは二人にそう答えるとホリがニッタに深い赤のビロードの布を投げつける。


 意味がわからないニッタはビロードを両手に抱え右往左往している。


「ニッタ、鐘にその布を掛けろー。慎重になー」 

 ハルキが声をかけると


「あー、そういう」

 と言うとビロードを両手に広げ、先程指さした方に進むと立ち止まり、まるで動物を捕まえる網を持ち上げる。


「あっ!」

 ニッタが叫ぶ。


 次の瞬間、世界が暗闇に包まれ赤い蜘蛛の巣のような光が広がっていく。

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