「慣れ合うのは好きじゃない」と言っていたダンがタッグを組んだ最凶ハッカー・アイシャと繰り広げる壮大な物語。
これを1万字で描ける仁科さんには感服するしかない。
私もこんな物語を書いてみたい。
AWとBWという二極の世界
同じ星にあっても全く異なる世界、BWで生きることが幸せだと思いつつ
その裏側にあるAWからを切り離すことはできず、破壊することはできない。
ひとつの映画を観たような読後、
現実のこの世界をSF化するとこんな世界観になるのかなと思いました。
見えない(見ないようにしている?)世界のことを私は知っているのに、知らないふりをして生きているのかもしれない。
壮大かつ訴える何かに圧倒されるSF傑作。
意外と自分のおしりをちゃんと拭けていない人って多いかもしれないな。
のっけから何を言ってるんだ! と思われるかもしれませんが、こちらはそういった不都合な真実を浮き彫りにしてくれる作品かもしれません。
見えなくなったが最後、棄てたものが今どんな姿か、どんな匂いか、どんな音を立てているか、想像して視ようとも思わない人のおしりには、まだ付いているかもしれません。
見えないもののことは、あまり深く考えていなさそうだから。
飲みきれなかったジュース、トイレの水、風呂の湯、洗濯水、工場排水、実験排水……それらが流れてゆく時、その水一滴一滴が、巡り巡っていずれ自分の口にも入るだろうその時までの水の生涯を想像して、想いを馳せられる者はどのくらい居るでしょうか。
存分に購買意欲を掻き立てられはしたものの程なくしてお蔵入りになる物たち
使い捨て前提で作られ当たり前に短命に終わる物たち
そして失脚した人たち
人は廃棄したものを見ない。
それがこの物語の舞台となる二極化した世界。
いずれ、聖者によって均される。
その時に聴こえてくる断末魔をかき消すのは……
終末世界に生き残るのは、一体どんな存在なのだろうか。
その答えの一つが、この物語の中に。
>いいんだよ。お宝は人それぞれだ。
何気にこの台詞が好きです。
遠い未来、科学制御された理想の世界BWを造り上げた人類は、不要なものを廃棄する世界AWをつくり、そのエリアに廃棄物を流し込んだ。
あまった食料、いらなくなった機械、そして不要な人間。
だが、廃棄物ばかりのその世界でも、人間たちはたくましく生きていたのだ。
捨てられた食料を漁り、廃棄された機械を活用し、やがてはBWへのハッキングを開始して、ひそかに搾取を開始する打ち捨てられた人々。
だが、ある日、廃棄者の元技術者ダンは、BWが進めるある計画に気づく。そのコードネームは『聖者の行進』。その恐ろしい計画に気づいた彼は……。
裕福な理想郷と、それが排出するゴミが溜められる下層世界。
その下層世界でたくましく生きる人々が主人公です。理想郷とゴミ溜めというふたつの世界の対比も面白いですが、ゴミ溜めの中でたくましく生きる主人公たちの反骨精神と反撃の展開が熱いです。
それは生き残るための戦いなのか、自分たちを捨てた世界に対する復讐なのか。
そして迎える衝撃的なラスト。
生き残ったのはいったい何者なのか? 冒頭のダーウィンの言葉が強く心に響きます。
たった10000文字。正確には9999文字。この、ひとつ欠けた文字数にすらSFを感じます。
この少ない文字数に集約された、壮大な人類の叙事詩。これぞ、SF。