たった10000文字のSF長編

 遠い未来、科学制御された理想の世界BWを造り上げた人類は、不要なものを廃棄する世界AWをつくり、そのエリアに廃棄物を流し込んだ。

 あまった食料、いらなくなった機械、そして不要な人間。
 だが、廃棄物ばかりのその世界でも、人間たちはたくましく生きていたのだ。


 捨てられた食料を漁り、廃棄された機械を活用し、やがてはBWへのハッキングを開始して、ひそかに搾取を開始する打ち捨てられた人々。

 だが、ある日、廃棄者の元技術者ダンは、BWが進めるある計画に気づく。そのコードネームは『聖者の行進』。その恐ろしい計画に気づいた彼は……。



 裕福な理想郷と、それが排出するゴミが溜められる下層世界。
 その下層世界でたくましく生きる人々が主人公です。理想郷とゴミ溜めというふたつの世界の対比も面白いですが、ゴミ溜めの中でたくましく生きる主人公たちの反骨精神と反撃の展開が熱いです。
 それは生き残るための戦いなのか、自分たちを捨てた世界に対する復讐なのか。

 そして迎える衝撃的なラスト。
 生き残ったのはいったい何者なのか? 冒頭のダーウィンの言葉が強く心に響きます。

 たった10000文字。正確には9999文字。この、ひとつ欠けた文字数にすらSFを感じます。

 この少ない文字数に集約された、壮大な人類の叙事詩。これぞ、SF。


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