聖者の行進

仁科佐和子

第1話 ダーウィンの進化論

 古い油の匂いが立ち込める薄暗いバラック小屋。トタン板を切り抜いただけの窓から差し込む陽光はスモッグに遮られ弱々しい。


「ダン、またそんなもん読んでんのか?」

 小屋に駆け込んできたルークは、ダンの手の中にある古い本を覗き込んだ。


「『生き残る種とは最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは変化に最もよく適応したものである』チャールズ・ダーウィンの言葉だ。知ってるか?」

 ダンが本の一節を読んで聞かせると、ルークは鼻で笑った。


「生き残る種ってのは、今日のおまんまを確保できたやつだ! 廃棄の時間だぜ、行こう!」

 ルークは棒っきれのように細い腕を差し出し、ダンを小屋から連れ出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る