第2話 二極化した世界

 科学革命が起こったのは、ダーウィンが没して800年ほど経った頃だった。

 神の領域に足を突っ込んだ科学者たちはダーウィンの言葉を取り違えた。


『科学者は希望や愛情を捨てて、石の心を持つべきだ』

 先人の言葉は偏った合理主義へと歪曲され、権力者にとって都合のいい差別主義を助長した。


 権力を持った者は世界を二層に分けた。

 彼らは、天候までコンピューターに管理された上の世界を「Blessed World祝福された世界」と呼び、自らを「天界人」と名乗った。


 天界人を頂点に、人々はピラミッド構造のカースト社会を形成した。

 科学の粋を尽くした白磁の美しい建造物が栄華を極める衛生的な環境。食糧危機も自然災害もない安寧な社会に人々は迎合した。


 産業には廃棄物がつきものだ。

 天界人は「Abandoned World放棄された世界」と呼ばれる下の世界を作った。


 100メートルはあろうかという高い城壁で取り囲まれたそのエリアは深く掘り下げられ、「天の門」と呼ばれる各エリアの扉から定期的に「上の世界の廃棄物」が流し込まれる。


 かつては使い終わった放射線燃料の貯蔵庫であったこの場所は、いつしか都合の悪いものをすべてなかったことにする「land fill埋め立て地」となり、天の門からはありとあらゆる「不要」なものがこのAW廃棄された世界に垂れ流された。


 犯罪者、社会不適合者、レジスタンスいわゆる天界人に不都合な人間もまたAWに落とし込まれた。

 AWに送られた人間は「pest害虫」と呼ばれ、人権を剥奪された。

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