第3話 AWで生きる人々

「おい、足元ゆるいぞ。気をつけろ」

 ダンは前を走るルークに声をかけた。


「わかってる!」

 身軽なルークはヒョイヒョイとゴミ山の上を越えていく。


 ゴミが蓄積するとメタンガスが発生する。ガスが貯まれば足場が緩む。踏み込んで高熱のメタンガス噴射を喰らえば、人間の体など一瞬で消える。


 歩くだけでも命がけなAWの人々にとって、天の門が開かれ廃棄物が落ちてくる時間は施しの時間でもあった。


 AWは農作物が育つような環境ではない。ここに生きるものはBWから流れ込んでくるゴミで命をつなぐ。

 不衛生な環境下、病を拾えば治すすべなどない。まさに「pest害虫」の生息環境と呼ぶにふさわしい場所で、それでも人は生きていた。


「またそんな変なもんばっか拾って! 食えるもんを探せって言ってんだろ?」

 電子部品を拾って歩くダンに、ルークは苦言を呈した。


「いいんだよ。お宝は人それぞれだ」

 ダンは腰を伸ばして空を見上げた。


 青い空に伸びた長いアームの先から、吹き出すように廃棄物が流し込まれている。


 悪臭には慣れた。悪意には慣れない。

ダンは天の門を振り仰ぐと、伸び切った前髪の奥から獣のような目をギラつかせた。


「アイシャだ!」

 ルークが近づいてくる遠影を見つけて手を振った。

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