第100話 終ワル
「……知っていますか?」
「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚」
「それら五感を持つ人間が、死の間際、最後の最後まで保つことができるのは、聴覚のみなんだそうです」
「だから、ほら、まだ聴こえるでしょう?」
「……私の声が」
「例え、死の間際にあろうとも」
「怖いですか?」
「恐ろしいですか?」
「悍ましいですか?」
「自分の命を奪った者の声が、最後まで聴こえているというのは」
「ねえ、教えてください」
「聴こえているのでしょう?」
「聴こえているはずでしょう?」
「うふふふふ」
「怖いでしょう?」
「耳を塞ぎたいでしょう?」
「うふふふふ」
「でも、それは叶わない」
「あなたは一方的に、聴くことしかできない」
「すべての権限が奪われた今、私の声に耳を傾けざるを得ない」
「うふふふ、あはははは」
「感じますよ」
「あなたは今、怯えている」
「震えている」
「怖がっている」
「自分という存在が、消え行くことに」
「そして、それを見守る者が、私しかいないことに」
「あなたの命を奪った私しか、あなたという存在が消え行くのを傍で見守る者がいないということに」
「あはは、あは、あははははは」
「ねえ、教えてください」
「教えてくださいよ」
「ねえ、ねえったら」
「怖いですか?」
「恐ろしいですか?」
「悍ましいですか?」
「ねえ、頑張って」
「人体というものは凄いんです」
「そんな力、残されているはずがないのに、最後の最後に、目が動いたり、手を握り返したり、声を発せられたりすることができるんです」
「まさに、神秘ですよ」
「だから、ね、教えてください」
「最後に残された力を振り絞って」
「私に、教えてください」
「ほら」
「ほら」
「なんだっていいから」
「教えて」
「怖いですか?」
「恐ろしいですか?」
「悍ましいですか?」
「怖いですか?」
「恐ろしいですか?」
「悍ましいですか?」
「怖いですか?」
「恐ろしいですか?」
「悍ましいですか?」
「……ああ、そろそろみたいですね」
「死が、もうすぐそこまで迫っていますよ」
「果てしない暗闇の、果てしない虚無が、待っていますよ」
「あなたの命は、完全に失われる」
「あと少しで」
「ほら」
「もう僅か」
「だから、ほら」
「教えてください」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
「怖いですか?」
——―…………怖かったですか?
怪異—怪シイ話— 椎葉伊作 @siibaisaku6902
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