あれ俺またなんかやっちゃいました系の主人公と思わせて、実は王道の熱血系

 主人公は錬金術師です。もっと細かく説明すれば、化学薬品を作るタイプではなく、釜で道具を生み出すタイプですね。

 この釜で道具を生み出すところに、この物語の肝がありまして、なんと擬人化します。

 しかも道具が原型なわけですから、性能の説明から用途まで詳しく教えてくれます。経験未熟な若い主人公に、老練なアドバイザーがついたようなものですね。

 かなりレアな特性を持った錬金術なわけですが、どうやら優秀だったおじいさんと大きな関わりがあるみたいです。

 しかもこのおじいさん、どこか抜けたスケベじじいと思わせておいて、専門家の間では有名人だったりします。

 その孫である主人公は、工房を受け継ぎまして、生まれ持った素質を開花させ、錬金術を使って商売をはじめました。

 タイトルにあるように、錬金術で生み出した道具を売るのではなくて、生み出した道具(擬人化した専門家)を使って、お客さんのお悩み解決をはじめたわけです。

 このお悩み解決の過程が、実におもしろい。

 登場人物たちのドラマをちゃんと描いているだけではなく、ミステリーみたいなどんでん返しまで仕込んであります。

 もちろんこのどんでん返しには、錬金術で生み出した道具が関わるんですよ。

 まさに技ありです。

 しかも全体の構成が巧みでありまして、章ごとに主題と舞台が変化します。

 国内で仕事をするときも、王族との日常的な関わりから、ちょっとした事件に発展したり。

 国外で仕事をすれば、そこは古都ロンドンそっくりな街並みで、切り裂きジャックにちなんだお話が展開されます。

 なにより爽快なのは、主人公の性格でしょう。嫌味がなく、元気いっぱいで、それでいて少しずつ成長していきます。

 もしかしたらこの主人公の最大の武器は、祖父から受け継いだ技術と才能ではなく、周囲の人間たちを仲間にしてしまう人柄かもしれません。

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