将来の夢というものを見つけられず、日々を憂鬱に過ごしていた高校生の響は、駅のホームで電車に飛び込もうとしていた少女を思わず助けた。
初対面のはずの彼女はなぜか響を見て涙をこぼし、不思議な言葉を呟いて、微笑んだのだった――。
出会いのワンシーンがとても丁寧に美しく描かれていて、運命的な始まりを予感させます。物語の軸になるのは主人公の響と、重い秘密を抱えて生きる海月、響の友人である拓馬と静香。高校生らしくきらきら輝く四人の夏休みに、美しくも切ない叙情をのせて、物語は描かれてゆきます。
淡い水彩画、あるいはパステル調に描かれたアニメーション映画、そんな印象を受ける繊細な描写が随所に散りばめられており、スルスルと読み進めてしまう魅力ある作品です。
物語を通して描かれる『救い』のありかたと、それを象徴づける『くらげ』。
彼女らの選んだ道は賛否両論あるかもしれませんが、若い感性の願う救いとして理解できるようにも思うのです。ラストの手記によって、また少年少女が経た日々によって、救いのかたちが人それぞれであると痛感させられるからかもしれません。
思いきって手を差し伸べることにより、色づく未来もあるのかもしれないと、私はそんなことを思いました。
完結作品ですので、ぜひご一読ください。
一人の少女が電車に飛び込む。その腕を、掴む。少女は涙を浮かべてお礼を告げた。
彼女が知る由もない、ある言葉を口にして。
この、駅のホームで始まる少年の日常と少女の非日常の邂逅――を目にした時、私は思わずパタリとページを閉じました。「じっくりと読もう」
例えば店先で覗いたページをすぐさま閉じて、家に持ち帰るように。
そうして彼らと同じように、かけがえのない一夏の時間を味わうようにゆっくりと読み進めました。
プロローグから予感する儚さ。挿し込まれる日記に秘められた心中。
少年・響と二人の学友と、少女・海月。この四人が紡いだ一夏は、幸せで、だからこそ切ない、人生の瞬きでした。――決して忘れることのできない。
海月はその名と同じように「くらげになりたい」と口にします。それが一体何を意味するのか……冒頭に口にするある言葉と共に不可思議で、謎めいたその意味は、この物語のテーマとなって解き明かされていきます。
情景・心情の描写は上手だとか丁寧だとか技巧的なそれ以上に、とても美しい。情景と心情を一つに表す絵画を見るような、一つに言い表せない感情が浮かびます。
この少年少女達の一夏を、プロローグのその先を、ぜひ見届けて頂きたいです。