<私>を呼んだのは、忘れられない名前の……

時代がそれを許さなかった。
振袖を着せられても月並みの本意ならぬ妥協はできなかった。己を偽る苦しみは想いを伝えられない哀しみに勝るのだろうか。もしくは同等の無念なのか。
人生の晩秋を迎えた主人公<私>の凍てついた想いが熱い涙にとける時。
偶然の出逢いが奇跡を呼んだ。
あの眩しい季節、共に青春の息吹を分かち合った愛しい人の名前が……。

何度も読ませていただいた。
その度に<私>と想いがシンクロする場面に涙する自分がいる。
<私>の境地そのままの抑制の効いた静謐な描写と洗練された文章が最高級の楽曲を思わせる優美な旋律を奏で、すうっと読み手の魂に沁み入ってカタルシスをもたらす。
これが作者の真骨頂とも言える恐るべき筆力! 
『烏丸千弦』を堪能せずに人生を終わらせるのはもったいない。

心が絆される感動のラストを是非多くの読者に見届けてもらいたいと希う。

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