読み方として正しくはないのでしょうが、印象深い成長物語でした

カラオケ店バイトで出会った同僚の女性に、次第に惹かれるようになる主人公。
しかし彼女には、主人公の知らない別の顔があった。
彼女への想いが、やがて主人公の人生観や行動を変える――

……上記の要約は完全に恋愛物語の筋ですし、初出時収録の短編集も「10 Love Songs and Stories」のタイトルとのことです。
であれば、本作はまちがいなく恋愛物語だと思いますし、そう読むのが正しいのだと思います。

ただ、(恋愛に関心が薄い)私にとって、このお話は「印象深い成長物語」として心に残りました。

目の前の景色は同じでも、以前は見えていなかったものが見える。
気付かなかったことに気付く。
それは大きな変化であり、成長と呼ばれる何かの起点であると思いますし、本作はその変化をとても鮮やかに描き出していると感じました。そしてその変化をなしとげた主人公の強さをも。

見えないものが見えるようになる――それを幾度も繰り返しながら、人は育っていくものだと私は思っていますし、見える景色が固定化した時点で人は死に始めるのだとさえ思っています。

将来、彼女と再会することがあるにせよないにせよ、彼の前途に幸あれと願わずにはいられません。

末筆になりますが、バイト中の物真似や迷惑客の描き方など、細やかなお仕事光景もとても楽しませていただきました。
ありがとうございました。

その他のおすすめレビュー

五色ひいらぎさんの他のおすすめレビュー130