この作中のキャラクターの肉付けは、微に入り細を穿つようなものではない。どちらかと言えば素っ気なく、最低限の肉付けしかしていないように見える。
ところが、読み進めるにつれ、「いるいる、そういう人!(笑)」「あるある、そういう人ってそんな感じの言動をしがちだよね」と思わせる程に、彼らは生き生きと動いて見せてくれるのだ。
脇役陣のそんな名演もあって、物語は読者の想像力の引き出しを開けまくって、読者それぞれのリアリティを目一杯引き出してくれる。
そんなリアリティを覚えさせる演出が積み重ねられると、結末もやはりリアリティを伴ったものになる。
力強く、骨太な一作だと思います。
是非ご一読下さい。
好意を寄せる相手と過ごす時間は高揚感に満ちていて、同じくらいの感覚で相手も楽しく感じてくれていたらいいなと思うもの。
でもそうして眺めている光景は、全体像のほんの一側面にしか過ぎなかったりして。
ごく身近なところから突きつけられた社会の仄暗さが、家とバイト先の往復から、もっと広い世界に目を向けるきっかけになる。
喪失感、やるせなさ、無力感……
そういったものが良い意味でバネとなったと解釈するには、時間も必要ですよね。
少なくとも忘れられない記憶の中に彼女の居場所がある。
そう思うことで救済されるのが、自分だけではないと良いなと思わずにはいられません。
隣に居ない彼女は器用で頼りになって、居るだけで春の温かみを感じて。
けれど少しばかりの器用さは、不器用にしか生きられないしがらみになってしまうこともあるのかもと考えさせられました。