第7話 【サーシャ視点】壊された!
sideサーシャ
今日一日のことを振り返っていた。
レイヴン様。
不思議な方だ。
ここに来て初めの頃。私はレイヴンという男が嫌いだった。
我々メイドには尊大な態度を取る方だった。
その癖に父上や母上にはヘコヘコと腰を折って謝るだけの情けない男。それが私の印象だった。
一般的な貴族と言えばそれまでだったけど、それでも私の胸のモヤモヤは消えなかった。
あの日までは。
レイヴン様は本当に不思議な方。
だってあれだけ嫌っていたのに今は───────
(好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き)
という思いで私の中をいっぱいにしていたのだから。
(はぁぁぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!レイヴン様!しゅきしゅきしゅきしゅき!!好き!だいしゅき!結婚しましょう!)
でも、私にその気持ちを伝える手段はなかった。
どうこの気持ちを表現したらいいかが分からなかった。
スラムで育ってきた私は愛情表現なんてものを知らなった。
でも私はついに昨日オムライスにハートマークを書くことに成功した!
なのに!
私はどういうわけかそのハートマークの真ん中にフォークを突き刺してしまった!
その時のレイヴン様の表情を忘れられない!
(嫌われたらどうしよう……でも。もしかしたらあなたのハートを狙ってます!って解釈してくれないかな?!)
私は今日一日そんなことを思いながらレイヴン様に付き従っていた。
実はと言うとずっと好き好きビームを送っているのにレイヴン様は全然気付いてくれません!
(オムライスの件謝った方がいいかな?)
で、でもそんなことしたらレイヴン様にこの気持ちが伝わってしまうかもしれない!
『メイドやめれるかもよ?』
みたいなことを言われたのを思い出す。
メイドをやめるものですか!
私は既にレイヴン様の専属メイドとして一生を終える覚悟ができているのですから。
しがみついてでも、煙たがられてもレイヴン様のメイドとして立ち続けることは誓っている。
(私がお守りするのだ。あの方を)
初め大旦那のバカ上を見た時は困惑していた。
レイヴン様をどうしてあそこまで溺愛しているのか。
でも今の私ならその溺愛する理由が分かる。
かわいいのだ。
12歳という年齢を考えてみてもまだまだ子供っぽさが残っていてかわいい。
中性的な顔でかわいい!
守ってあげたくなる!
でも今日言ってくれたことを思い出す。
『たまには守らせてよ』
そう言われて私は何も言えなくなるくらいに、胸が爆発して死にそうになっていた。
(そ、そんなことを言われては私フリーズしてしまいますわ!!!)
あぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!!
レイヴン様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
届けこの思い!!!!
恋のトラバサミで捕まえてぇぇぇぇぇ!!!!!
「はぁ……はぁ……いけない」
スラム時代から私は周りに鉄仮面を被った【冷血の死神】とか呼ばれていたのに。
それからずっとクール系だと自分でも思っていたのに。
胸の中だけとは言えこんなにも取り乱してしまうなんて!
私はすっかりレイヴン様に壊されてしまった!
レイヴン様に二年間付き添って私はすっかり壊されてしまった!
「よし、です」
気持ちを完全に落ち着かせて私は本日最後の業務であるレイヴン様の警護に向かう。
貴族たる者いつ命を狙われるか分かりませんからね!
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