作中一番ひどい結末を迎える悪役に転生したけどそうならないように頑張ることにしました。原作では闇落ちしますが回避します。
にこん
第1話 過去が重すぎる男に転生
『お前だったのか……レイヴン』
『くくく……はははは……全部俺さ。俺がやった』
物語は今クライマックスを迎えていた。
俺が今プレイしているのは厨二バトルファンタジー系に恋愛要素を申し訳程度に混ぜ込んだエロゲー。
いわゆる燃えゲー。
タイトルは【ブラッドデスティニー】
物語のあらすじ、どうだっけ?
たしか主人公が善人で、悪役のレイヴンはそんな主人公と友達だったが、最終的に裏切る……そんな感じだった。
そしてその裏切りシーンを今俺はプレイしていた。
『うんざりなんだよ。全部』
レイヴンが思っていたことを全て吐き出していく。
このキャラすげぇ重いんだよな。
子供の頃に両親を殺害され孤児院に送り込まれ、唯一残った肉親の妹も孤児院に乗り込んできた暴漢に犯され、そしてぐちゃぐちゃに体を潰されて殺された過去を持つ。
更に本人はスラム送りにされてそこで力に目覚めてスラムを支配していく実力者になるのだが。
ちなみにスラムで出会った初恋の少女すら、やはり目の前で強姦されて殺される。
スラムでお世話になったお姉さんみたいな女の人も犯されて踏みにじられて最後にはドブに落とされて殺される。
とまぁ、代表的なところを挙げればこんなものだが、悲惨なイベントは他にもいくらでもある。
ライターはこのキャラに親でも殺されたのか?と聞きたくなるくらいの壮絶な人生を歩んできたのがこのレイヴンというキャラ。
当然だがレイヴンはあまりにも悲惨な人生を送り光を失い闇に堕ちた。
(過去が重すぎるんだよなぁ……こいつ)
何よりキツイのがこのノベルゲー、ダブル主人公システムを採用しており、レイヴン視点でもストーリーが進むので目の前でヒロイン達が凌辱されるのを黙って見せられるシーンもある胸糞悪いゲームだった。
グロもOKなゲームなためグロCGが映ることもある。
俺も何度か心が折れそうになった程だったが、元々そういうゲームだと言うことは皆知ってプレイするので一部からは熱狂的な支持を得ていた、が。
ちなみに俺は耐性がないので夢に見た。
ストーリーを進めるために画面に目を戻した。
『退けよォ。イカロス。そいつをぶっ殺さなきゃ気が済まねぇんだよ』
レイヴンが主人公のイカロスにそう告げた。
イカロスが守るのはメインヒロインのキャラだった。
何故レイヴンがメインヒロインを殺そうとしているかは、全ての元凶がメインヒロインだということを知ってしまったからだった。
『ここでお別れだなレイヴン。勝たせてもらうぞ』
血塗れの顔面で立ち上がるイカロス。
『はははは!!!!お前が俺に勝つ?できるもんならやってみろよ!温室育ちが!闇の中で、泥水飲んで必死に生きてきた俺に勝てるわけねぇだろうが!』
どう聞いても負けフラグ全開のセリフを吐いて特攻するレイヴン。
ちなみにこのキャラはスラム時代に本当に泥水を飲んでいたこともある。
これが主人公サイドならすごくグッとくるセリフなはずなのにこいつ悪役なんだよな。
俺個人的な話で言うならそろそろレイヴンさんは報われてもいいと思うんだけど。
もう、なんというか悲惨すぎて、「さん」付けで呼びたくなる。
『はぁ……はぁ……くそが……』
物語の都合上なにをどうしてもレイヴンはここで負ける。
膝を着いて激しく息をするレイヴン。
それを見下ろすのがイカロスという構図だった。
残念ながら悪役に厳しいのだ、この世界は。
俺はそこで見てられなくなりアプリケーション終了した。
悲惨すぎん?
ここまで一番悲惨な人生を送ってきて更には最後まで負けるって。
ちなみにレイヴンはこの後死ぬことも許されず悪魔共のおもちゃになる。
無限に続く苦しみの中一人囚われる、という作中もっとも悲惨な結末を迎える。
シナリオライターはこのキャラに親を殺されたと言われても俺は信じるよ。
そう思いながら布団に潜った。
それからなんとなく気になってスマホでレイヴンについて調べて見ると、シナリオライターのSNSを見つけた。
そこにはこういう投稿があった。
『レイヴン?闇堕ちするのが不思議じゃないよねって思えるように徹底していじめました。エンディングもこいつをいじめればハッピーエンドだったので最後まで救いはありませんでした。でも他のみんなは救われましたね。めでたしめでたし』
あぁ……やっぱりなのか。
元々いじめるのは決まってたわけね……。
それを確認してスマホを枕元に置いた。
明日も早い。
寝よう。
◇
「頭いてぇ……」
寝起きの体でベッドから這いずるように出た。
「あぁん?」
ベッド?
俺の部屋にベッドなんてない。
なんで、ベッドから出た?
そう思っていると、見覚えのない部屋に自分がいることに気付いた。
その時、ガチャりと扉が開いた。
「おはようございますです。レイヴン様」
そう言って入ってきたのは10歳くらいの女の子。
(それよりも、レイヴン、だって?)
キョロキョロと周りを見た。
俺以外に人なんていない。
というより、この子見覚えがある。
「どうかしましたでしょうか?」
不思議そうに近寄ってくる女の子。
「具合でも悪いのですか?」
今度は心配そうな顔で俺を覗き込んできた。
(思い出した。この子、ブラッドデスティニーに出てくるメイドのサーシャじゃねぇかよ)
俺は全てを察した。
(もしや、作中一番の悲惨キャラのレイヴンに転生したか?)
だとしたらやばい!!!!!
このキャラゴミみたいな人生しか歩まないからだ。
まず基本設定からして終わってる。
ライターに終始いじめられて終わるだけだ。
俺はサーシャに目を向けた。
「サーシャの顔になにかついてますですか?」
こいつも死ぬ。
当然だ。
レイヴンというキャラはひたすらにライターにいじめられて悪役となるのに相応しい人生を送るからだ。
その過程でレイヴンさんの周りにいる女は全員死ぬからだ。
そして。
レイヴンさんは全てを失い絶望してなんやかんやと禁忌と呼ばれた魔術に手を出していく。
時には悪魔と契約したりもするのだが
『力が欲しいか?』
『あぁ』
『良かろう。貴様の寿命を半分もらおう』
などという会話が普通に行われる世界観だ。
(やべぇ……俺はただ普通に生きたいだけなのに?!)
このままじゃ普通に生きれねぇんだけど?!
「サーシャ」
「はいです?」
今まで自分から発された声の高さから自分の年代を推測してそれっぽい話し方をしてみよう。
「ぼくが今何歳か分かるかな?」
不思議そうな顔をするサーシャ。
「本当にレイヴン様なのですか?」
ぎくっ!
なんで分かった?!
そこで頭を必死に動かした。
何故突っ込まれたのかを考えろ!
その結果分かった。
多分一人称が間違っていたんだ。
レイヴンは「俺」という一人称しか使ってなかったし。
「あ、あはは。ごめん。寝ぼけてたよ。俺何歳だっけ?」
どうだ?
これで。
これ以外に訂正のしようなんてないぞ。
「レイヴン様のようですね」
そう答えるサーシャ。
胸を撫で下ろす。
どうやら『ぼく』と言ってしまったことにサーシャは違和感を覚えたらしい。
「今はサーシャと同じ10歳ですです。ボケるにはまだ早いですよ?」
そう言ってサーシャは俺の服を脱がそうとしてくる。
「わっ?!」
「動かないでくださいです。お仕事ができませんです」
そ、そうか。
レイヴンは貴族だったな。
そのことを思い出して俺は無駄に抵抗することもなくサーシャに服を着替えさせてもらう。
(恥ずかしいな……)
女の子に服を脱がしてもらうなんて恥ずかしいことだが、変に抵抗するとまた怪しまれる。
それよりも考えをまとめよう。
俺はレイヴンに転生した。
しかしまだ10歳。
幸いまだあの怒涛の如く押し寄せる不幸イベントはまだ始まらない、と思っていいだろう。
たしか12歳くらいから始まるはずなんだよな。
(どんな理不尽だって跳ね除ける力を身につけるしかないか)
まだ死にたくない。
生きるために強くなるんだ。
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