第5話 裏切りメイドなの?

「レイヴーーーーン?!!レイヴーーーーン?!!!!」


俺が庭でこれからどうしようか考えていたらバカ上……。

間違えた。父上が走り回っていた。


「おぉ!こんなところにいたのか?!レイヴーーーーーーーン」

「どうしたのですか」


俺が呆れたような目で見ているのに気付いているのか気づいていないのか喋り始めるバカ上。


「腕の怪我はどうだ?!私はお前の腕の怪我が気になって12時間しか寝れなかったぞ?!うぉーーーーー!!!」


ぐっすりじゃねぇかよ、って。

ツッコミ待ちか?


「別に。どうってことないですよ」

「ほう!そうか。安心したぞ。妹も心配していたからな!ではな!」


バカ上が去っていくのを見送ってから離れに向かう。


昨日と同じように扉を開けて中に入ろうとしたら


「レイヴン様」


また同じようにサーシャが横に立っていた。


「また止めに来たの?」

「……」


サーシャは何も言うことなくガラッと扉を開けて俺の手を引いて中に入った。


そして扉を閉めた。


驚いたな。

バカ上の犬だと思ってたんだが。


「俺がここで何をするか、知っててやってるんだよね?」

「はいです」


コクリと頷くサーシャ。


「多分見つかったら俺より酷い仕打ち食らうと思うけど?」


俺はあれでいてバカ上には溺愛されているようだが、サーシャの場合そうじゃない。


本来俺の修行なんて止めなきゃいけない立場でこんなこと見逃すのだ。

どうなるかわかったものでは無いが。


「サーシャは覚悟を決めましたです。これよりレイヴン様にこの心も身も捧げましょう。全て覚悟の上です」


そう言って真っ直ぐ俺の目を見てくる彼女。


「どういう風の吹き回し?」

「サーシャはあなたの専属です。ですので大旦那様ではなくこれよりは名実共にレイヴン様に仕えます」


サーシャは俺に頭を下げた。


え?

な、なんで?


「いいのか?本当に。バカう……父上に見つかればサーシャは処刑されるかもしれないぞ」

「覚悟の上でございますです」


顔を上げてサーシャは真剣な顔で見てきた。

本当に俺に従うという覚悟がその顔には出ていた。

それから


「サーシャはあなたに伝えることがありますです」

「そ、それはどういう?」


なんだよ改まって。なにを伝えるんだ?


そんな真面目な顔で伝えるようなことなのか?


いや、待てよ。


俺は昨日の今日出会ったようなものだけどレイヴンとサーシャは前からの付き合いのはずだ。


俺はそこでひとつ考えた。


まさか


愛の告白、というやつなのでは?


「サーシャは」


一度区切るサーシャ。

ゴクリと息を飲んで言葉を待つ。


「あなたに剣を教えましょうです」

(ん?)


剣を教える?


そう言ってサーシャは急にメイド服のポケットに手を入れてそこから剣を取り出してきた。


(四次元ポケッ〇かよぉぉぉぉ?!!!どうやっても入らないだろ?!!そんなもの)


そして、剣を振った。


「【スラッシュ】」


横に振り抜いた剣。

それは凄まじい速度で振り抜かれており、俺の髪の毛をユラユラと揺らしていた。


(これ俺が昨日怪我した意味ある?)


俺が突き飛ばさなくてもこの子勝手に犬倒したんじゃないのか?


そんなことを考えながら口を開いた。


「さ、最近のメイドは戦えるの?」

「サーシャは元々スラムの人間です。だから戦えますが敬語は上手く話せませんです」


ここに来てこの子の言葉がおかしい理由が判明した!


そういう理由だったのか!


「スラムでは女も子供も関係ありませんです。生き抜くためには武器を持つ必要がありましたです」


この世界のスラムは殺人が日常茶飯事だ。


子供が酒を飲んで、子供が大人を殺し、みたいな。


スラムではそんなダークな世界が広がっていることは原作をプレイした俺だからこそ分かる。


ちなみに原作のレイヴンさんはスラムで逃げるためにドブの中に隠れてやり過ごしたこともある。


その時にドブに満ちていた泥水を意図せず飲んでいた。


めっちゃ苦労人なんだよな、レイヴンさん。


とにかくサーシャはそんな過酷な世界で生き抜いてきたらしい。


「サーシャがあなたに剣を教えますです」

「よろしく頼むよ」


なにはともあれこの子は俺と運命を共にしてくれるらしい。

文字通り自分の命をかけてでも。


でも、それだけに気になった。


「俺なんかに命預けるつもりなの?」

「あなたレイヴン様ではありませんよね?」


そう聞いてくるサーシャ。

まさか気付かれてるのか?


俺の全身を、爪先から頭のてっぺんまで見通すような目で見てくるサーシャ。


「私に年齢を聞いてきた日です。中身が入れ替わったのではないですか?」

「……」


流石スラム出身。

本当によく見てるし鋭いな。


「まぁどちらでもよいですが」


これ以上は詮索しない、と続けるサーシャ。


「私は今のあなたになら命を預けてもいい、とそう思いましただけです。前までのレイヴン様ではなく、今の名称すら不明のあなたになら、と」


それから目を細めて俺を見てきた。


「さぁ、練習、始めましょうかです。まずは基礎剣術の【スラッシュ】から」


サーシャは俺の後ろに回ってくると手で手を取り体の動かし方から教えてくれる。


そして俺は手取り足取り教えてもらった結果【スラッシュ】を習得した。


「随分早かったですね習得するのがです」


サーシャの言葉に答える。


「サーシャの教え方が上手かったからだよ」


そう答えて俺はそろそろ切り上げようと伝えた。

あんまり長居してるとメイドや他の関係者がここで俺たちが修行してるのを見てしまうかもしれないし。


同意してくれたサーシャに剣を返すとサーシャはまた四次元ポケットみたいなポケットに剣をしまっていった。


(どうなってんだ?あのポケット)


そう思っていると俺を見つめてくる。


「スラッシュを獲得したついでですしステータスも見ておきましょうか。分かりますですか?ステータスの開き方」


原作でのステータスの開き方なら分かるけど同じかな?


「ステータス、オープン?」

「はいです」


ステータスの開き方をサーシャに確認した俺は早速ステータスを開いた。


​───────​───────

名前:レイヴン

レベル:5

攻撃力:15

防御力:25

魔力:30

体力:30


剣術スキル

【スラッシュ】

​───────​───────


(おお。ステータスが出てきた!)


ここまで確認できたし今日は本当に終わり、ということで離れを出る。


俺を先導する形で歩いていくサーシャの背中を見ていた。


(悲しいな。まだ俺と同じ10歳なはずなのにバカ上の背中より広く見えるんだけど……しかも頼り甲斐ありそう)


父上もあれはあれで貴族だし最低限の圧みたいなのは感じるが、サーシャからはそれ以上のものを感じる。


この小さな体で。


(やっぱりスラムは厳しいんだろうな)


そう思いながら見ていると急に首だけ回して俺の顔を見てくるサーシャ。


そのポーズがやけに似合っていた。


なんというか


サーシャちゃんはクールかっこいい!!!!!!


いや、これじゃ意味が同じじゃないか?

頭痛が痛い、みたいだな。


サーシャちゃんはクールかわいい!!!!


これだな!


そう思っていたら


「今日の夕飯はオムライスだそうですが。うさぎ型にしますか?」


意外と年相応の言葉を発してくれたサーシャだった。


こうして俺とクールかわいいサーシャ師匠との激しい秘密の修行の日々が始まるのであった。


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