第4話 完璧な止血 ※後半サーシャ視点

「レイヴン!大丈夫なのか?!その腕はぁぁぁあぁぁ!!!パパはぁぁぁぁぁ!!!パパはぁ心配だぞぉぉぉぉぉ!!!!!うぉぉぉぉ!!!!!あぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


家に帰って父上に怪我をしたと報告すると直ぐにパニックになりながら医者を家に呼んでくれた。


その医者が俺の腕を見ながら布を解いていく。


「医者。早くレイヴンを治してくれ。見るに耐えんぞこんな腕は」


俺以外には親バカは発動せず大人っぽい態度で振る舞う父上を見ているとやっぱり貴族の端くれなんだな、と思う。


その医者が俺の傷を見て眉をひそめた。


「ご子息は医療の知識があるのですか?」


「そんなもんあるわけなかろう!医療は医者の仕事だ!そんなことよりレイヴンを早く治せぇぇ!!!こんなにも血が!血がぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!うわぁぁぁぁああ!!!!痛そうだぁぁぁぁ!!!!!」


叫んでいる父上に医者は俺の腕を指さした。


「あ、あの。血は止まっていますよ」

「そ、そんな訳ないだろぉぉぉぉ?!!!こんなにも痛そうな傷で血が出ていないなど?!……あれ?」


俺の腕をまじまじと見てくる父上。


「血が、出ていない?」

「は、はい。ご子息はご自身で止血を行ったようなのです。ですので医療の知識があるのかどうかをお聞きしたのですが。完璧な止血ですよ。我々でも見たことがないくらいの」


そう言って医者は俺の腕を消毒してヒールして帰って行った。


後は安静にしていれば一晩もあれば治るだろうと言っていた。


普通ならばもう少し回復までに時間がかかるだろうが俺が完璧な止血をしたため回復までが早くなったそうだ。


医者が去っていったあと俺を見つめてくる父上。


「レイヴン!!!何故サーシャを盾にしなかった?!メイドなんだぞ?!あれは?!!ちゃんと盾には盾らしくさせないと!!」


説教してくる父上に答える。


「サーシャはサーシャですよ。盾なんかじゃない」


俺にこの世界の貴族としての考えは理解できない。


自分の代わりに誰かを盾にするなんて文化はよく理解ができない。


それなら大人しく自分が怪我をした方がマシだと思う。


「失礼します」


そう言って父上の部屋を出ていく。


ガチャりと扉を開けたそこには


「サーシャか」

「ご、ごめんなさいです」


通りがかったのかサーシャが立っていた。

俺の腕を見ると直ぐに視線を下に向けたけど。


「気にしないでよ。俺が勝手に動いただけ」


サーシャのことは不問にしてくれ、と父上には伝えてある。


「気にする必要はないよ。なにか言われたら報告してくれ」


そう言って俺は自分の部屋に戻る。




sideサーシャ


レイヴン様が出ていったあと私は大旦那様にお叱りを受ける​───────


「レイヴンが説教はやめろと言っていたから、私もお前が盾にならなかったことについては不問にする。私もレイヴンに嫌われたくないからな!」


はずだった。


(え?)


「レイヴンは優しいな。自らメイドのお前を守るなんて。貴族としては失格だが人間の鑑だな。わはははは。流石レイヴンだ。ふはははは」


そう言って私のことを見てくる大旦那様。

なにが起きているのか理解できなかった。


私は守るべきだったはずの護衛対象を傷付けてしまったメイド失格。


叱られて当然の存在、だというのに。


「な、何故お叱りになられないのですか?」

「言ったろう?レイヴンが叱るなと言ったからだ。お前がいくら使えないメイドだとしてもレイヴンが不問にせよと言うのなら私はそれに従うまでだ」


私はあの人に生かされた、ということなのでしょう。


「ところで」


と話題を変えてくる大旦那様。


本当に私がレイヴン様をお守りできなかった件はこれで終わり、不問にすると言うような反応だったが。


「お前最近レイヴンに違和感を感じないか?」

「どういうことでしょうか」

「私は今まで口酸っぱくレイヴンに剣を練習するなと言ってきたはずだ。しかしあいつは先日私のところに来た、どういうことだと思う?」


ブラッドフレア家では子供に剣を教えてはならない。

それは決まっていたことだった。


この家に仕える者や関係する者ならば誰もが知っていること。


ましてやこの家の息子であるのなら知らないはずはなかった。


「お前なにかレイヴンから感じないか?まるで人が変わったような、私にはそんなふうに見えるが」

「分かりかねますです」


なんと答えたらいいか分からなかった。


実際のところ私もレイヴン様に対しては色々思うところがあったから。


この前だ。

年齢を聞かれた日。


あの日から違和感はあった。


急に自分のことを『ぼく』と言ったり。


それに急に男らしくなったり。


私はレイヴンという男が嫌いだった。

レイヴンの近くにいるのはこうして大旦那に拾われて仕えているだけ、という理由だけだ。


だけど、私の知るレイヴンは今日みたいなこと絶対にしない。


私のことを突き飛ばしてでも犬に噛みつかせて自分は逃げる、そういう典型的な貴族なはずなのに。


逆に私を守ってくれた。


だから思っていた。

この人はもう私の知るレイヴンという人間ではないのでは、と。


正直に答えたらそんな人を売ってしまうのではないかと思ってしまう。


「本当に分からないのか?今日の止血とやらもそうだ。何故あいつがあんなものを知っていた?」


メイドの私ですら、レイヴンの変化に気付いていたのに生みの親である大旦那が気付かないわけがない。


でも、どう答えたらいいのだろう。


「まぁ、どちらでもよいがね」


へ?


呆気に取られた。

どちらでも、よい?


「レイヴンはレイヴンだ。成長することもあるだろう。私が覚えた違和感というのも成長によるものだと思ってもいい」


そう言って私を見てくる大旦那。


「だが、剣術だけは教えるなよ。あいつが戦えるようになれば戦場に飛び込んで今度は首だけで帰ってくることにもなりかねんからな」


それは私にとっても避けなくてはならない未来だった。


レイヴンの死は私の死も意味する。


大旦那のレイヴンへの親としての愛は天井知らず。

そんなもの見ていれば誰でもわかる。


そんな愛すべき息子を失えば専属のメイドだった私をも殺す勢いで激昂するだろう。


「は、はいです」

「さがれ。お前も傷つくレイヴンなど見たくないだろう?」


そう言われ私は部屋を後にする。


レイヴンに剣術を練習させない。

それが一番誰も苦しまずに幸せになれる方法。


でも今の私はレイヴンの意志を尊重したい、という気持ちもあった。


どうすればいいのだろう。

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