第8話 気付き

「サーシャ。見取り図は持ってきた?」

「当然です。レイヴン様の名前を出せば直ぐ大旦那様が出してくれましたです」


いつも通りクールに俺にブラッドフレア家の見取り図を持ってきてくれたサーシャ。


そろそろ笑顔のひとつでも見せて欲しいところだけどな。

ずっとこの鉄仮面のような無表情を見続けるのもなんか怖いし。


まぁ、でもそんなこと言ってまた怒らせてもいやだしな。

スルーしておこう。


「でも見取り図なんてどうするつもりですか?」

「まぁ見てなって」


スコップで穴を掘っていく。


深さ一メートルくらいの穴ができた。


その穴の底に鋭く尖った鉄の棒を突き刺していく。


「これでここに落ちた奴は串刺しになるってわけさ」


完成した落とし穴を見せて俺はそう説明。


「でも、こんな丸見えの罠にかかる人なんていますか?」

「いや、これをこうするんだ」


穴の上に布を被せて砂を盛っていく。


この辺りは芝ではなく砂だからすごくやりやすい。


「す、すごいです。穴が見えなくなりましたね。これで敵は気付かずに踏み抜く、というわけなのですね」

「そうだよ。これを回避した奴らと戦おう」


盗賊団がこんなのに引っかかるかどうかは分からないけど。


やらないよりはましだ。


そんなふうに敷地内に罠を張り巡らせる。

この家の関係者なら特に通ることは無いと思われる道に設置してあるので盗賊以外が罠にかかることはないだろう。


「しかし、なぜレイヴン様の誕生日に襲撃、なのでしょうね?」

「誕生日の日は警備が薄くなるんだ。メイドもかなりの数に休暇を与えられる」


もちろん専属メイドのサーシャには休みなんてないけど。


「でも、その日を狙うってことは盗賊団も知っているってことですよね?」

「たしかにな、どこからか漏れてるのかな情報が」


そこまで考えてなかったな。

サーシャの言葉がヒントになった。


「ありがとうサーシャ」


気付いてくれたことをサーシャの手を握って感謝した。

するとプイッと顔を背けて黙り込んでしまう。


やっぱり嫌われてんのかなぁ?

でも嫌われてるにしては……って感じもするけど。


謎だ。

と思いながら手を離す。


とにかくサーシャの言葉でどこからか情報が漏れてるのは分かった。


「もう無駄かもだけど、どこから漏れてるかを探そう」


サーシャにそう提案して俺は情報の漏洩元を探すことにしたが、それらしいものは見つからなかった。


いったいどこから漏れてる?


そう思いながら夕方を迎えたのだが。


「レイヴン」


バカ上が家の中から出てきた。

いつも家の中でなにやら仕事をしているのだが珍しく外に用事でもあるのか、外向きの姿だ。


「なんでしょう?」


「パパは今から遠い遠い場所に行くのだ。伯爵に呼ばれていてな。お前としばらく会えなくなることは悲しいが。元気でな。おぉぉぉぉぉぉん!!!レイヴゥゥゥゥゥン!!!!!」


涙ぐんでそう言ってくる父上。


「分かりました」

「家のことはママとメイド共に任せているぞ」


そう言って出ていこうとする父上。

それを見送りながらサーシャに目をやった。


もしかしてあの人、という可能性はないか?


「なぁサーシャ」

「私も言いたいことがあります」


サーシャとは最後まで言わなくても心が通じあってた。


そして示し合わした訳でもないのに俺たちは同時に口を開いていた。


「バカ上じゃないのか?」

「バカ旦那様だと思いますです」


そう言ってハッと気付いたような顔をするサーシャ。


「お、大旦那様だと思いますです」


訂正していたが


「俺しかいないんだ。気にしなくていいよ。それよりも俺は嬉しいよ」


サーシャの手を思わず掴んでいた。


いつと鉄仮面のような無表情でいるサーシャ。


なにを考えているのかよく分からなかったけど、それでもこの一瞬心が通じあったのはすごく嬉しいんだ。


「サーシャと息があってさ。すごく嬉しいよ」


そう言うとまた怒ったような顔をするサーシャ。


「お、おたわむれもぉ……ほどほどぉにぃ……ですぅ……」


声が裏返りそうなサーシャ。


やばい、そんなに怒らせてしまったか?


その後に激しく深呼吸をするサーシャ。


そんなに怒らせてしまったのか?!!!


「ご、ごめん。急に手掴んじゃって」


パッと手を離すといつものクールな表情に戻るサーシャ。


やはり俺に手を取られるのが嫌だったらしい。


「それより早く行こう」


バカ上は既に敷地を出ていった。


すぐにでも追いかけないと、やらかしに気付けない可能性がある。


「こちらを」


そう言ってサーシャは俺に仮面とローブを渡してきた。


「私のお古ですがスラム時代に使用していたものです」

「あ、ありがとう」


これで一応顔を隠していこう、ということか。

俺が外にいるのをバカ上に見つかれば何を言われるか分からないしな。


準備がいいなサーシャは、そう思いながら身につけた俺はサーシャと共に家を出ていった。


薄暗くなってきた夜の街をバカ上を尾行して歩く。


しばらく歩いたバカ上だったが直ぐに貴族の家にインターホンを鳴らして入っていく。


それを確認した俺たちは近くの路地裏に入ってしゃがみこむ。


「【盗聴】スキルは使えますか?」


サーシャに聞かれて俺は頷いた。


【盗聴】


スキルを発動してどこを盗聴する範囲を選ぶと目の前にウィンドウが出てきた。


そこに移るのは室内の映像。


これが、盗聴スキルだ。


「サーシャも聞こえてる?」

「はいです」


聞こえているようなので俺はウィンドウの映像に目をやる。


そこにはバカ上と伯爵らしき人物が映っており


『いやはや伯爵様。お招きいただきありがとうございます』


あぁ見えて外向きは割と普通なようだ。

何も無く終わるのかな?と思い始めた時事件が起きた。


『ところで、ご子息の様子はどうですかな?』

『レイヴンのことですか?!そうですね?!えぇ、レイヴンの話なのですね!』


俺の話になると急にテンションが上がるバカ上。


俺は顔を手で抑えた。


なんでそうなるんだこの人は。


『数日後にレイヴンの生誕祭が行われます。我が家で』

『そ、そうなのか』


『はい。メイドや騎士など余計な者には全て!休暇をくれてやり、家族水入らずの生誕祭を行わせていただきます!

生誕祭は朝8時から夜の10時までを予定しておりますが。伯爵?レイヴンを見たくても申し訳ないのですがお招きしておりまっせんので!ちなみにもちろんレイヴンには学園を休ませますので』


俺はサーシャと目を見合わせた。


「バカなのですか?この人は」

「あぁ、バカなんだろう」


自分から全ての情報を漏らしているバカ上の姿を確認した。


「ここから漏れたんだろう」


言っちゃあれだけどさぁ。

バカ上がウザイからぶっ殺したくなるのは分かるけど、実際にやっちゃだめでしょうよ。


まぁ、この段階で伯爵と犯人が決まった訳ではないが。


今日のところのバカ上の行動はとりあえず確認はできた。

サーシャを連れて家へと帰る。

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