第9話 ブラッドパーティー
準備は万端だ。
俺の誕生日一日前。
俺はサーシャを連れて最後の仕上げに取り掛かっていた。
数日前伯爵の家に手紙を送り付けた。
その内容はこうだ。
レイヴンの誕生際の日時を間違えて伝えてしまった!
本当の誕生祭は一日早いです!
みたいな感じで。
もちろんうざったらしく感じるように文面は考えてポストに入れておいた。
父上の方もあれから行動は観察していたがあれ以降特に口を滑らせることもなかった、というより出かける用事がなくて家に引きこもっているようだった。
そこで今回この一日早い段階で盗賊が動き出すのなら情報の出どころは伯爵で確定だが。
「エレナ」
俺は庭を歩いてブラッドフレアを守る私兵のエレナに声をかけた。
「どうしましたか?レイヴン坊っちゃま」
膝を着いて俺に対応してくれるエレナ。
彼女は俺より少し年齢が高いだけだ。
たしか現在15歳だったはずだけどその剣の才能を見込まれて今では俺の家の私兵として買われている。
年齢の割にほんとうにしっかりしている。
「なにか私に用事でしょうか?」
普段エレナに話しかけることは無いから少し不思議がっているような彼女に告げる。
「今日の訓練は中止して欲しいんだ」
「は、はぁ?」
突然言われて困惑しているような表情のエレナ。
それもそうだろう。
毎日訓練するようにバカ上からは言われているからだ。
それを俺がやめるように言っているのだから困惑もするだろう。
「父上になにか言われたら俺に付き合った、と言えばいいさ。今からサーシャと隠れんぼするんだ。それに付き合ってくれないかな?人数が足りないんだ」
「メイドを誘ってみてはどうでしょうか?」
彼女は兵士として俺の家を守る責務がある。
簡単には訓練をやめないだろうことは分かっていた。
そこで俺は禁じ手を使うことにする。
「俺はエレナがいいんだ」
「それはどういうことでしょう??」
「ブラッドフレアの私兵が女性である。そのことの意味は知ってるよね?」
サーシャもそうだけどこの家にいる女の子たちは父上が俺の将来を考えて連れてきた女の子たちだ。
早い話が父上としては俺の婚約者がこの中から出るかもしれない、と考えていてこうやって女の子ばかりを連れてきている。
「俺が君を選んだ、理由はひとつしかないんじゃないかな?それにもう夕暮れも近い時間だ。切り上げるのが少し早くなるくらいだよ」
「光栄です。分かりました訓練は中止しましょう」
そう言って隠れんぼに付き合ってくれることになったエレナ。
直ぐに身につけていた装備を外して近くに戻ってきた。
「鬼は俺がやるよ。サーシャと隠れていてね。一分数えたら探し始めるよ」
頷いて隠れに行く二人を見送ってから俺は一分数えることにした。
さて、これで準備は完全に完了、というわけだ。
武器を外させたエレナには酷だが、頑張ってもらうことにしよう。
俺がエレナに訓練をやめさせたのには理由がある。
エレナはなにも言われなければ夜遅くまで訓練するから。
それを盗賊に見られてしまえば奴らが攻めてこなくなる可能性がある。
だから表向きは子供が三人で隠れんぼをしているだけという光景を作り上げた。
後は盗賊がここに入ってくるのを座して待つ。
ガサッ。
微かに聞こえた物音の方角にエレナの赤い髪の毛が建物の陰に見えたけど見えてないフリをする。
そのまま隠れていてくれたら盗賊からも見えない。
エレナの方は隠れるのが苦手らしい。
サーシャの方はどこにいるのか全く検討が付かないが。
流石スラム出身というわけか。
そうして適当に探すフリを夕暮れまで続けると。
バキィッ!!!!
凄まじい物音が聞こえた。
それはハンマーか何かで何かを破壊する音。
何を破壊されているかは見なくても分かった。
(外壁が怖されたか)
そう思い物音の聞こえた方に目をやるとやはり外壁が壊されておりそこから盗賊が敷地内に入ってきていた。
(数は4。原作通りだな)
記憶通りの人数に顔をニヤリと歪めた。
原作の知識は通用する。
「相手は子供一人だ!やっちまえ!」
そう言って走ってこようとした盗賊の一人が
「あぎゃぁぁあぁあっ!!!!!」
バキッ!と音と共にトラバサミに足を引っ掛けていた。
「ど、どうした?!」
仲間が心配したのかその男に近寄ろうとしたが、今度はズボッ!と音が鳴り
「あがぁぁぁぁあぁあぁぁあ!!!!!足がぁぁああぁぁぁ!!!!!!!」
今度はその道中にあった落とし穴に落ちて鉄の棒に足を貫かれていた。
「くすくすくす」
笑いながら近付く。
「ようこそ、歓迎するよ」
残り二人はここが罠だらけと思ったのか逃げようとしたが
「逃げられるとお思いなのですか?」
上から降ってきたサーシャが一人の足をバッサリと切りつけて
「あとはお任せします」
残ったもう一人を俺の方向に蹴ってきたサーシャ。
「ちっ!な、なんなんだよ!今回は余裕って聞いてたのに!ぜんぜん余裕じゃねぇのかよ!」
転けそうになりながら俺の目の前で四つん這いに倒れた男。
直ぐに起き上がって俺を見てきた。
「クソガキが!今すぐ見逃せば命は助けてやるぜ?」
笑ってステータスを見せつけてくる男。
──────────────
名前:トーゾク
レベル:10
攻撃力:20
防御力:18
魔力:40
体力:40
──────────────
「ん?」
俺は驚いたようにしてみせる。
「俺はレベル10のトーゾク様だ!痛い目に会いたくないなら黙って俺を見逃すことだなぁ!」
そう言っているトーゾクの顔を俺はぶん殴った。
「げほっ!な、なんだこの力……こ、このガキのどこにこんな力が……」
「知りたい?なら見せてあげるよ」
──────────────
名前:レイヴン
レベル:30
攻撃力:38
防御力:40
魔力:78
体力:80
──────────────
「な、なんだ……このステータスは……こんなガキが……レベル30だと?!」
「悪いね。俺の勝ちだ」
最後に尻もちをついていた盗賊の顔面に回し蹴りを食らわせる。
その時
「なんだなんだなんだ!!!!!!」
ドタバタと走ってきた父上。
その横にはエレナがいた。
恐らく盗賊が出たのを見て直ぐに呼びに行ったのだろう。
父上がこの惨状を見て一言呟いた。
「お、お前がやったのか?レイヴン……?」
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