第11話
日の出とともに俺は西に向かった。すっかり砂嵐は止んでいたので、
第二坑道の入口を探すと、地図と寸分違わず、それはあった。
第一坑道とは違って、木陰に紛れた茶色い壁のトンネルだった。裏口のような役割なのだろうか、
俺はマジックアイテムである左の義眼を取って、入口付近に隠す。そしてまた第一坑道入口に戻った。
戻る途中で集めた木の枝や葉を使い、簡易な屋根を作る。その下に横になり、一日中入口を見張ることにした。
――まあ、このまま
大坑道の入口は遠目から見ても不気味だ。一歩踏み込めば
ふと、村の方からこちらに近寄る足音が聞こえたので、またターバンを巻いて正体を隠した。失った左目も眼帯のようにぐるぐる巻きにした。
「こんにちは、ギークさん。もしよかったら、食事をどうですか?」
ハネンは木の葉で編んだ
三日以内にクエストは片づけるつもりだったので、俺は飲み物しか準備していない。ウエストリバーを発ってから、食事らしいものにありつけていなかった。
――しかし、身分がバレるのもあれだし、気難しい娘の相手はしたくないな。
「入りますよ」とハネンは考える余地を与えず、俺の横に座った。一人分のスペースしか作っていないので、腕が触れ合う狭さだ。
並べた籠を開けると、色とりどりの野菜と、鹿肉のような小ぶりのステーキが入っていた。もう一つの箱にはパンが入っていて、
「おいしそうだ」俺は思わず声に出して言った。
「少ないですけど、よかったらどうぞ」
俺は感謝しながらハネンの差し入れを食べた。
不意に、マイロンとの甘い思い出が
――あれは、俺がまだギルド保安官になって間もない頃だった。
ユーゼリエ家が盗賊団に狙われているという情報をつかんだ俺は、マイロンの豪邸を三日間、防犯のために巡回していた。
そんな俺を見ていたマイロンが、邸宅から抜け出して、こっそりサンドイッチをもってきてくれたのだ。
その時、人生で初めて俺は恋に落ちたのだ。
でも、……そのマイロンは……いま違う男にサンドイッチを……。
「……あのー。あのー」
心配そうにこちらを覗き込むハネンの顔が、一瞬だけマイロンの残像と線を結んだ。思わずマロンちゃんと言いそうになって、直前で頭を振って正気を取り戻す。
「お口に合わなかったですか? 無理に食べなくてもいいんですよ?」
「いや、とても美味しい。力が
全部食べ終えると、ハネンは口に手を当てて俺の食べっぷりを小さく笑う。
そして空の弁当を集めて、風のように去っていった。
***
その日、結局俺は一度も大坑道に足を踏み入れなかった。
夜になって、第二坑道の入口に仕掛けておいた目玉を回収し、映像を確認する。
昼間の映りは良好だ。東風も止んでいて、
少し映像を早めると、鹿の親子が通り過ぎる。さらに先へ、先へ、進めていく。
すると、斜面の上から人影が下りて来た。
ドワーフにしては背が高い。
俺と同じようなマントを羽織り、頭巾を深くかぶっていた。
――ローグだ。
一匹狼で無法者。金に困れば、殺しにまで手を染める奴らをそう呼んだ。
パーティー内で起きたクラックなどが原因で、ギルドから追い出され、クエストが受けれずローグに落ちぶれてしまう奴もいる。
話が見えてきた。
ダンジョンのモンスター一掃であれば、これほど多くのギルドメンバーが失敗することはない。モンスターへ意識を向けている横から、隙をついてギルドメンバーの命を奪っているに違いない。
映像のローグは俺と同じ図体で、腰に刀を携えている。
まずはこいつを倒さなければいけない……。
俺は
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