落日の街
第20話
暗黒の
ウエストリバーの交差点に設置された
やがて朝日が
「治安維持部隊の指揮は、王国衛兵長が兼任する」
ギルドハウスの一階でガイドルが声を張り上げた。
三日前、ギルドメンバー全員に集合命令が発せられた。この命令に従わなかった場合、ギルドを強制退会させられる。つまり、いま来ていないギルドメンバーは全員
ウエストリバーは
夜になるとモンスターがどこからとものなく街の中に現れ、住民が殺される事件が起きていた。
国を挙げての作戦に、ギルドもほぼ強制的に駆り出された。
ギルド保安官は一時的に職を解かれ、王国衛兵長が指揮する守備隊の一兵士に加えられる。
そうして集まった大勢のギルドメンバーは、一階に入りきらず、街道まで溢れていた。
「やってらんねぇな……」
俺の横にいる男が愚痴った。
――たしかに。ほとんどのギルドメンバーがそう思っているだろう。
街の治安維持は王国守備隊の問題だ。ギルドメンバーはあくまで住民たちの依頼として最優先に引き受けるのだが、肝心の報酬がない。
もともと金で動くやつらがほとんどで、ギルドマスターであるガイドルでも、彼らの価値観を変えることなど不可能だ。
その分、俺らギルド保安官が働いて、坊主たちに大人としての手本を示し、奮起させられるかどうかといったところだ。
――だが、しかし……それだけではなく、ギルドメンバーへの詳細な指示が下りてきていないのか、地区を割り当てられるだけで具体的な指示がなかった。
そこは初日だから、ということで俺の中で割り切った。
これが連日となれば、さすがのギルドマスターでも俺が口論してやる。……まあ、明日までは我慢するか。いや、明後日ぐらいがギリギリかな……。
***
俺は割り当てられた大聖堂地区に向かった。
大聖堂は
しかし、大聖堂内は王国衛兵隊の本部が陣取っていた。
プレートメイルを装備し、黄金の兜を脇に抱えた衛兵が三十人ほど
衛兵の中で、特に輝く鋼鉄の鎧を装備した男がいる。第三十一代国王の横顔が描かれた赤いマントをつけ、
俺はタノスの姿を見つけると、柱に隠れた。
柱の陰を音なく渡り歩いて、見つからないように大鐘がある塔の階段を登った。
――あっちは知らないだろうが、こっちは十分すぎるほど知っている。
公的にも私的にも。
最後の階段を登り終えて、
狙撃ポイントとして、この上ない。
俺は背負っていた鉄パイプを取り出して、どこに狙いをつけるか考えていると、階段から足音が聞こえた。
二人の話し声と共に現れたのは、タノスとその側近だった。
「おや、先客がいたようだ」
タノスの声は力強く響き、聞き取りやすかった。
俺は逃げ場を無くして、しょうがなく立ち上がり、顔をあわせず
「君は、もしかして……ギルドのハーズ・ボトリックか?」
タノスが俺の頭を指さすのが気配で分かった。
自分の従順な性格が嫌になる。
――そして、もう忘れようと思っていたマイロンのことが、また蘇ってくる。しかしそれは仕様のないことだ。なぜなら、タノスはマイロンと結婚した相手なのだから。
俺はその恋敵に向かって、丁寧に頭を下げているのだ、自分を情けなく思う。
この地区を担当にしたガイドルに文句でも言いたいところだが、マイロンのことについては、エレナしか知らないのだからしょうがない。
しおらしくしていれば、去って行ってくれるだろうと思ったが、タノスは兜をツレに預けると、俺の両肩をつかんだ。
「……本当に、残念だった……」
俺は想定していない展開に戸惑った。
顔上げると、タノスの
「私の力不足だった。彼女は、昨日魔物に殺されたんだ」
タノスは顔を伏せてつぶやいた。
――死んだ? 誰が?
「彼女って、誰のことだ?」勝手に口から、思った言葉が飛び出た。俺は確実な情報がほしかった。
「……マイロンだよ。君は元恋人だったんだろ? それとなく知っていてね」
「うそだろ、マイロンは王宮に居るんだ。魔物なんて出るはずがないし、出たという話も聞いたことがない」
「信じたくない気持ちは分かる。……王宮に魔物が突然現れたことは、ウエストリバーの住民の不安を大きくするため、公表しないことになった。しかしながら……君には知る権利があると思ってね」
タノスの言っていることは、よく分からないことばかりだった。
そもそもなぜマイロンが命を狙われたのか不明だし、王宮に魔物が現れたのであれば、まず王宮の守備を頑強にするのが筋だ。兵力を街に分散させることを王族は嫌がるはずだ。
「からかっているのでしょう? 笑えませんよ」
俺はタノスに無理やりな笑みを返した。
タノスの痛ましい表情が、俺を不安にさせ、しだいに腹立たしく思えた。
――その
俺は仕事のため、体勢を伏せて狙撃の準備をした。
タノスは連れて来たもう一人を置いて、階段を降りて行った。
右目で照準を定めていると、マイロンの姿が次から次に目の前に写った。
ウーラノスの眼の残像かと思ったが、左目にそれはなかった。
途方もない喪失感に、俺は胸を
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