憧れの先輩は露出性癖持ちの裸族でした。
木春凪
1話 夢
「生徒会室にラノベを置き忘れてくるとは……不覚……」
放課後、グラウンドで部活をしている運動部の声が聞こえるが、校内にはほとんど生徒はもう残っていない。
俺は、高校の三階にある、生徒会室に向かっていた。
生徒会のみんなが集まるまでの間、俺はよく生徒会室で隠れてラノベを読んでいる。
教室で読むのは恥ずかしいし、隠れて読むには最高の場所だった。
その時間を確保するために、いつも会議があるときは、誰よりも早く集合しているくらいだ。
今日は二番目に副会長がやってきて、俺はばれないように咄嗟に机の下にラノベを隠し、帰るときには忘れてしまっていたということだ。
何で、そこまで慌ててラノベを隠したかって?
確かにブックカバーも付けてるし、すぐにはばれないかもな。
でも、俺にはどうしても、副会長にはラノベを読んでいることを知られたくない理由があるんだ。
それは、
俺は、副会長である二年生、君野らら先輩のことが好きだからだ。
らら先輩のことを語ろうと考えたら、ラノベ十冊分くらい書ける気がする。
それに、らら先輩のことをありのままに描写できるイラストレーターがいたら、俺の稚拙な文章力でも、アニメ化待ったなしだと本気で思う。
それくらい、好きだった。天使だった。
どうして俺がそんなに先輩に惚れているのか、それを語るには、まず、ラノベを回収してからいったところだろう。
今日最後まで、生徒会室に残っていたのはらら先輩だったと思う。
もし見つかっていたら、ジ・エンドだ。
ラノベごときで大げさじゃないかって?
全然おおげさじゃない。俺が置き忘れたラノベは、『ロリだけど、全裸でもいいよね?』という、いろいろと危ないラノベだからだ。
今後の生徒会活動にも支障をきたしかねない。いや、人生にも。
そんなことを考えていると、生徒会室に向かう足取りも早くなる。
「電気はついてない……よし」
もし、らら先輩がいたら、回収が難しくなる可能性があったが、もう帰っているようだ。
念のため、生徒会室が空いていないか、扉を横に引くが、鍵は掛かっているようだ。
ガタン!
「……?」
いま、生徒会室の中で、何か音がした……?
でも、鍵は掛かっているし、電気もついていない。きっと気のせいだろう。
俺はポケットから、細い針金を取り出す。そして、小さく深呼吸をして、
「ゲート・ブレイクアウト!」
そう呟き、鍵穴に針金を差し込む。
あれだ、またの名を、ピッキングという技術だ。良い子は真似しちゃだめだぞ!
ガチャリ!
鍵が開く、爽快な音が聞こえた。
どうして俺が、こんな技術を身につけたかといえば……いや、そんなことよりもラノベラノベ!
俺は、扉を開く。
するとそこに、天使がいた。
水を弾きそうなほど、つやと張りのある白い肌。華奢なのに、むちっとした太ももとお尻は、どこか妖艶な色気を醸し出す。
たわわに実った二つのふくらみは、とてもやわらかそうで、その上には、綺麗という言葉では表現できないほど整った、天使のような顔がある。
つまり、俺が何を伝えたいのかというと、君野らら先輩の全裸は、俺の拙い語彙力では、表現できないってことだ。
ん……? らら先輩の全裸?
俺は、自分の目を擦り、目の前の光景をもう一度見直す。
目の前に、
憧れの、君野らら先輩の全裸があったのだ。
らら先輩と目が合う。その白い肌が、朱色に染まっていく。
そして、俺の顔は鼻血で赤く染まっていく。
「これは夢に違いない……!」
きっと、疲れているんだ俺は!
俺はもう一度目を瞑り、自分の頬を大きくつねる。そのときだった。
「んん……!」
背中にあたる柔らかな感触とともに、俺は何者かに口を塞がれる。
甘い、大好きな香りが、ふんわりとしていくる。
「こ、声をださないでください……!」
切羽詰まった声だっだが、そのやさしい声は、確かにらら先輩の声だった。
「ああああ、どうしましょうどうしましょう……」
相当テンパっているのが伝わってくる。でも、それは俺も同じだった。
(いま、先輩に抱き着かれてる!? さっき裸に見えたし、まさか、いま背中にあたっている感触は生おっ……あばばばばば)
いったい、どうしてこんなことになったのか。
俺はどれだけの善行を積み上げて、この天国にたどり着くことができたのだろうか。
ゆっくりと、振り返って見ようじゃないか。
☆ ☆ ☆
俺、大神鍵が、天使と出会ったのは、中学二年生のときだった。
当時、中学デビューに失敗した俺は、やさぐれ、友達もおらず、中二病も発症していた、どうしようもない奴だった。
何か特技を身につけたいと考え、必死で覚えたピッキング。それを周りに自慢していたら、やばい奴だと思われて、誰も近寄ってこなかった。実際にやばい奴だった。
一人の俺は、いつも空き教室をピッキングして侵入しては、マンガやラノベを持ち込んで内緒で読んでいるような奴だった。
先生に見つかり怒られては、尾崎豊の『十五の夜』を口ずさんで家に帰るどうしようもない奴だった。
そんなある日、ピッキングで開けた教室で一人、ラノベを読んでいた俺にある一人の少女が話しかけてきた。
お察しの通り、当時、同じ中学校で生徒会長をしていた、君野らら先輩だ。
「な、なんだよ……」
ほとんど女の子と話したことなかった俺は、相当テンパっていたと思う。
「こんにちは! 小説を読んでいるの?」
「そ、そうだけど……なんだよ、邪魔す、するなよ」
ラノベを小説と答えたのは、別に間違っていないと思う。うん。
「私に、その小説、教えてくれませんか? 図書館にある小説です?」
「お、置いてねぇよ……図書館はまだ、俺の流行に追いつけてねぇからな……」
訳・当時まだ、俺の通っていた中学校にラノベは置いてなかったのだ。
「そうなのですか? でも、本は好きなんですよね? 図書館で、本のこと、教えてくれませんか?」
「急に、何を言っ……て……!?」
そのとき、俺は初めてらら先輩を間近で見たのだと思う。
陰りのない、清らかで美しいその美貌、雰囲気は、まさにラノベのヒロイン。天使の様だった。
「行きます! 図書館!」
俺は一瞬で更生していた。この人こそが、自分を導てくれるヒロインだと確信したからだ。
実際、らら先輩は先生に頼まれて、俺を注意するように言われてきただけだったけれど。それでも、らら先輩のやさしさが、心に染みた気がした。
その日から、俺は勝手にピッキングで教室に侵入することも、ラノベや漫画を持ち込むこともなくなった。
いわゆる、普通の生徒に戻ったのだと思う。
あるとき、らら先輩が、地元の高校の中でも一番の進学校に入学したと聞いた。
そのときから、俺は、必死で受験勉強を始めた。
一重に、ねね先輩と同じ高校に行くため。俺はこのときに初めて、自分が先輩にがち惚れしていたことに気づいた。
その『愛』が力をくれ、俺は無事、らら先輩と同じ進学校に入学することができた。
えっ? 早く全裸のらら先輩の続きが読みたいって?
もう少しだけ自分語りさせてくれよ。ごめんって。
高校に入学した俺は、らら先輩がまた、生徒会に入っていることを知ったんだ。
高校の生徒会は、思っていたよりも学生に人気はなかった。きっと中学のときと違って、内申点にあんまり影響しないからだと思う。
そんなこんなで、後期に入り行われて生徒会選挙で、俺は、対抗馬なしで庶務になることができたんだ。
生徒会室で、久しぶりにねね先輩に会ったときの言葉を、いまでも俺は覚えている。
「大神さん、お久しぶりです。一緒に頑張りましょうね?」
それだけで、すべて報われた気がした。
俺は、天使を、君野らら先輩を愛している。
☆ ☆ ☆
「そ、そうだ……俺は、どんな事情でも受け入れることができる……!」
俺の口を塞ぎ、後ろで全裸でテンパっているらら先輩。
きっと、何か事情があるに違いない!
容姿端麗、頭脳明晰、品行方正ならら先輩のことだ。きっと何か理由が……!
「んん……! んん!」
だめだ! 口を塞がれてしゃべれない!
「こ、こうなったら……大神さんの記憶を消すしか……」
なんか怖いこと言ってるよ!?
ちっ一か八か……!
俺は、塞がれている口から、なんとか、舌を出し、らら先輩の手を舐めあげる!
(うおぉぉぉぉぉぉ!)
べろり、べろ。
「……あっんっ!」
らら先輩は、こそばゆかったのか、驚いたのか、艶めかしい声を出して、こ、俺の拘束を解く。
作戦成功だ! いや、らら先輩の手を舐めたかったとか、そんなことはないから! まじで! おいしかったけどさ!
俺は、自分の手で目を覆い、らら先輩を振り返って叫ぶ。
「こ、これで見えませんから! 何か、事情があるんしょう!? らら先輩!」
「……! じ、事情……!」
俺の言葉を聞き、らら先輩が反応したのを感じ取る。
何だ、やっぱり、そうか。らら先輩が、そんな意味もなく全裸になるわけないもんな。
「……そうだ! あれです! 水をばしゃーっと全身にこぼしてしまって……乾かしていたところなんです!」
「ああ、そういうことですか~って、どうして水を全身に!? そんな全身が濡れるほどかかることある!?」
「えっ、そ、それは……」
しまった! ノリで突っ込んでしまった! いまので納得してあげていればよかったのに!
でも、全身が濡れることなんてなくね!? バケツでも持って立ってたの!? ねね先輩!?
「ま、間違えました~、私、濡れていませんでした……あの、ですね、実は私……」
何かに降参したかのようにしゃべりだす先輩。俺は、ごくりと唾をのみ込む。
「肌から、大気の魔力を吸収する魔法使いだったんですよ~」
「ええ~本当ですか! それなら仕方ないですね!」
「そうなんですよ~、このことは、内緒にしてください、ね……?」
「あははははは」
「うふふふふふ~」
二人の間に和やかに雰囲気が流れるが、
「いやいや! 苦しいですよ! らら先輩! さっきの言い訳の方がましでした!!」
「ええ~~‼ そんな……!」
俺は突っ込まずにはいられなくなってしまった自分の愚かさと、らら先輩の言い訳の幼稚さが可哀そうで、思わず涙してしまった。
「もう、服を着てください……俺は何も見ていない……先輩の性癖は、冥土まで持っていきます……」
「せ、性癖って……! 泣かないでくださいよう~! それに……」
先輩は少し言いづらそうに、ぼそりと呟く。
「まだ、十分くらいしか脱いでないですし……服、着たくない……」
「十分くらいって!? やっぱり変態じゃないですか!」
「ち、違うもん……! 変態じゃないです! ら、裸族! 裸族なだけですから~!」
「裸族なんですか!? というか、もう早く服を着てください!」
「い、いやです……」
「!? どうして!」
すると、返答に少しの間が生まれる。目を隠していても、先輩がもじもじしている様子が想像できた。全裸で。
「は、初めて人に見られたから……少し、興奮しちゃって……」
「裸族だけじゃなくて露出性癖まで!!!」
「ら、裸族で露出……!? 大神さん! 話を! 話を聞いてください~!」
お父さん、お母さん。憧れた先輩は、露出性癖持ちの裸族でした。
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