8話 ミッション
荷物を抱えた俺とひななは、まっすぐ廊下を進み、生徒会室を目指す。
俺のミッションは、生徒会室の中、学校資料が多く収められている棚の引き出しに入っている、先代から受け継がれてきたであろう秘宝(ナニグッズ)を守り抜くこと。
ひななが生徒会顧問の内田先生から受けた依頼は、この小さな段ボールを生徒会室まで運ぶことであることから、おそらく、この荷物は置いて帰るだけで終わるはず。
細心の注意さえ払えば、容易に達成できるミッションのはずだ。
「じゃあ、開けるね」
生徒会室の前に着くと、ひななは生徒会室の鍵を開け中にはいる。
(さぁ、一瞬で終わらせよう)
俺はひななに続いて中に入り、自然に段ボールを机の上に乗せる。
そして、言い放つ。
「よし、明日使う資料かもしれないってらら先輩も言ってたし、とりあえずこのまま机の上に置いておけばいいだろ」
よしっ! 決まった!
俺がいまのセリフを言ったことには理由がある。
もし仮に、この中身はなんだろう? 確認しようという流れになってしまい、仮に中身が学校資料であったならば……
「机の上に置いておくのもあれだし、しまっておく?」
と、真面目なひななはいいかねない……!
そして、その引き出しとは、ナニグッズが入っている棚の引き出しを意味する。
つまり、その流れに乗せてしまえば、ジ・エンド。
俺がすべきことは、この段ボールはこのまま机の上に置き、速やかに生徒会室からひななを退室させることだ。
ちらり、と俺はひななの反応を見る。
「そうだね、明日使うかもなら置いておこっか」
……計画通り。
ふぅ。警戒し過ぎることなんてなかった。
冷静になれば、資料を探す、しまうときくらいにしか、棚の引き出しは使用しない。
そう思ったから、俺とらら先輩は一時的にそこにナニグッズをしまったのだ。
「さぁ、行こうぜ、ひなな」
ミッションが終わったのであれば、すぐにでもらら先輩の援軍に行かねば。
俺は生徒会室から出ようとするが、
「ねぇ、鍵」
ガラララ、と椅子を引く音が聞こえる。
俺が振り返ると、ひななは中央に設置された机の椅子を引き、そこに腰を下ろす。
「らら先輩と二人でどんなお話したの? 二人でいたってことはいい感じじゃん! それにさっき何のラノベを貸したの~」
ひななはにやにやしながら、話を聞かせろと、俺に座るように対面の椅子を指さす。
(く……! そんなことをしている場合ではないのに……!)
しかし、確かに俺とらら先輩が二人でいたことは事実であり、ラノベを貸すようなそぶりもひななには目撃されている。
「それは……内緒だ。俺とらら先輩、二人だけの秘密、だからな!」
今回はひななの誘いに乗るわけにはいかない。
俺は椅子には座らず、机に軽くもたれかかりながら話す。
「え~! 教えてくれてもいいじゃん! どうせロリものでしょ~」
「いやだから俺はロリコンじゃないよ!?」
その考え改めてくれ! 何かの間違いでらら先輩にロリコン認定されたらどうする! あれ? もしかしてもうそう思われてたりする? そうなら泣きそう。
「でも、すごいと思うよ。本当に仲が良くなってるように見えたもん。前よりもずっと」
「そ、そうか……?」
確かにお互いに隠し事はなくなったからな……
「なんかね、さっきの様子を見て、鍵が将来的にらら先輩と付き合うことになっても、驚かないような気がする」
ひななは茶化している様子もなく、続ける。
「もしも、だよ? らら先輩と付き合うことになったとか、進展があったら、そのときは……」
「心配しなくても、何か進展があれば、ひななにはちゃんと伝えるって」
俺はひななの言葉を遮る形で話す。
「だから、今日はもう帰ろうぜ、ひなな」
このまま話を続けると、長くなりそうな雰囲気を感じ、俺は言葉を早める。
「むぅ……なんか、鍵。早く帰りたそうだね~」
ひななは、ほっぺたを膨らませ、拗ねたようにそう言う。
「そんなことないって。でももう段ボールは運んだし、生徒会室の鍵も返さなきゃだろ?」
「……そうだけど……らら先輩とは放課後に楽しそうにしてたくせに……」
「なんで、らら先輩に対抗するんだよ……」
「それに……」
ひななはじとーっと、俺を見る。
「な、なんだよ」
「さっきから、ちらちらその棚の方を見てるよね?」
「……!?」
ひななが指をさしたのは、ナニグッズの入った棚だった。
な、んだと……!? まさか無意識に見てしまっていたのか!?
「ば、ばか野郎、そんな方、見るわけないだろ、こ、この野郎……!」
「え、なにをそんなに動揺してるの……?」
ば、ばか野郎、俺! こんなときこそ平常心だろ!
「ど、動揺なんて、してないだろ。さぁ、行くぞひなな!」
疑われているのは間違いない。そんな俺が選んだ解決策は、力技!
ひななの手を取り、少し強引に席から立たせる。
(よし! そこまで抵抗がない!)
このまま、生徒会室から出れば、あとで何とでも言い訳はできる!
生徒会室の扉を開こうとした、そのときだった。
「え……?」
背中に、何か柔らかい膨らみが当たる。
そして、お腹にをぎゅっと華奢な両腕が巻き付く。
これは……
(抱き着かれている……!?)
なんで、どうして!? どうしてロリ体系なのにこんなにおっぱいが!?
そう思ったとき、後ろから声が聞こえる。
「あ♡や♡し♡い♡」
あ、これ抱き着かれたんじゃなくて、捕まえられたやつだ。
考えるしかない。この窮地から抜け出す方法、そして……
このおっぱいは何カップなのかを……!!
「はっ!」
俺は一体何を……?
邪念に負け、一瞬、理性を失ってしまっていた。
(お、恐るべし、ひななのおっぱい……!)
背中に当たっているそれに俺は惑わされていたのだ。
「ねぇ、鍵。あの棚の中に、何か入ってるの?」
「……!」
動揺するな俺! 守勢に回ると相手にペースを握られてしまう!
「その反応、やっぱり怪しい~」
俺は攻撃に回ることに決めた。
「……ふっ、ははは!」
「な、なに、急に笑い出して」
突然笑い出した俺に、ひななは、多少驚いた反応を見せる。
「なぁ、ひなな。どうして俺がいま、動揺した反応をしているか、わかるか?」
「……あの棚の中に、何か隠してるんでしょ?」
「ふっ、違うな……俺が動揺しているのは……」
「動揺しているのは………?」
俺は、一呼吸間をおいて、いい放つ。
「ひなな! さっきからお前のおっぱいが背中に当たってるからだよ!!」
「んなっ……!」
ひななが、驚きの声を上げるが、俺の背中から離れる様子はない。
「ふ、ふ~ん。やっぱり意識してたんだね」
そう、余裕を見せるかのように話す。
「当たり前だろ、俺も男なんだし……」
「でも、これはね、わ、ざ、と、なんだよ? まるでラノベや漫画みたいなシチュエーションでしょ?」
憧れの先輩は露出性癖持ちの裸族でした。 木春凪 @koharunagi
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