7話 屋上への道
俺とらら先輩は、神妙な面持ちで、生徒会室を後にする。
すべての武器を持ち出すことは危険であるため、それぞれ一つの武器を選び、聖戦に臨む。
俺が選んだ武器は、『気持ちのいい体位♡』という、どこかに売っているのかよくわからない雑誌だ。
これを選んだことには、明確な意図がある。
派手な二人が行為に及んでいたとして、床はコンクリートであり、きっと冷たいし固い。
ローション等を楽しんでいる余裕はないのではないかと感じたのだ。
ならば、手短に楽しめるような情報を、こっそりと二人に見えないように添えて置く。
もしかすると、二人で雑誌を読み、「学校じゃなくて、家で試そう」といった発想に至るかもしれない。
あの二人を屋上前から退散させれば、聖戦の勝利。
うむ。大丈夫、問題ない!
らら先輩はというと、武器に選んだのはアイマスクだった。
「アイマスクで、果てさせることができますかね……?」
俺はそう、疑問を投げかけたが、
「目隠しすると、もしかすると新感覚で新たな快楽を得ることができるかもしれませんよ……!」
「そういうもんですかね……?」
らら先輩がそう豪語するものだから、俺はそれ以上何も言わなかった。
(……まさか、自分用じゃ、ないよな?)
俺は一瞬思い当たった雑念を、首を振って追い払う。
さすがに、それはないだろう。
俺がそう思って、ちらりとらら先輩を見ると。
「……楽しみだなぁ……♡」
顔がとろけるようになっていた。
ち、違う、これは屋上での全裸を楽しみにしてるだけだ! そうですよね、らら先輩!
とりあえす、俺たちは再び、中央階段へ向かう。
少し時間が経っているので、二人がいなくなっているのがベストなのだが……
そのとき、
「あれ! らら先輩と鍵……?」
「……!」
俺は、びくりと身体を震わせる。この声は、まさか、
「二人とも、どうしたんですか? もしかして、今日って生徒会活動日でしたっけ……?」
振り返ると、そこにいたのは、生徒会役員の一人、俺と同じクラスでもある、桜野ひななだったのだ。
大きな目を真ん丸にして、不思議そうに俺とらら先輩を見る。
「ひななこそ、どうしたんだよ? 今日は生徒会活動はないはずだろ?」
俺は平静を装いながら、あえてひななに逆質問した。
「それが聞いてよ~! さっき内田先生に見つかってさ~ちょうどいいからこの荷物を生徒会室まで運んでくれって言うんだよ~!」
よく見ると、ひななは小さな段ボールを抱えていた。
(あ、危なかった……!)
もし、生徒会室の例のグッズを広げているところを見られてしまっていたら……終わりだった……!
「……あっ、もしかすると、明日の生徒会活動で使う資料かもしれませんね……!」
らら先輩も自然に会話に入ってくる。
俺がちらりと顔を伺うと、
「あははは……」
目がめっちゃ泳いでる!?
どうしたというのだろうか。冷静に考えて、この状況、俺たちはまだやましいことは何も行っていない。
カバンの中に入れている、俺の例の雑誌さえ見つからなければ、何も問題が、な、い……?
(……!)
俺はあることに気づく。
さっき、俺たちは生徒会室で、例のグッズが入っていた黒のビニール袋をどこにしまった……?
記憶を思思い返す。
『このビニール袋、倉庫部屋まで戻しますか?』
そう言ったらら先輩の発言に対して、俺は、
『結構深いところに隠してあったんで、まだ雑誌も戻すかもしれませんし、引き出しにしまって置きましょうか?』
『そうですね。きっと誰もきません』
俺のばか! ぬかった!
仮に、もし見つける可能性は少ないにしても、仮にひななが偶然引き出しを開け、ビニール袋の中を覗いたら……!
俺たち生徒会の誰かが、必ず疑われる……!
らら先輩は、そのことにいち早く気づいたのだ!
その状況だけはまずい!
「ひ、ひななは、これから生徒会室に向かうのか?」
「? そうだよ?」
俺は、賭けに出る。
「俺も手伝うよ!」
「……! 大神さん!?」
らら先輩が驚いた声をあげる。それもそのはず、俺がいないと、屋上の扉を開くことはできない。
らら先輩は全裸になることはできないのだから。
「そうだ! らら先輩、さっき話したラノベ、ちゃんと読んでくださいよ~! カバンに入れておきますから!」
「え、あの…えっ?」
俺は自然にらら先輩からカバンを借りると、ひななに背を向け、見えなくした状態で、自分のカバンからラノベと例の雑誌を取り出し、らら先輩のカバンへ移す!
そして、一瞬のハンドサインをらら先輩に送る。
俺、ひなな、オッケー。
らら先輩、このカバン、使う、二人、倒す。
「……!」
俺のハンドサインが伝わったのか、らら先輩は、無言で俺に頷き返す。
「今日は、俺の雑談に付き合ってくれてありがとうございました。また、ラノベの感想、聞かせてくださいね」
ひななは、俺のオタク趣味がらら先輩に許容してもらえたと思っている。
それを最大限に利用し、俺たちが一緒にいた理由を作る!
「桜野さん、お手伝いできなくてごめんさい。これから少し、用事があって……」
「ええ! そんなの大丈夫ですよらら先輩!」
頭を深く下げる先輩に慌てるひなな。
(鍵も、手伝わなくていいから、らら先輩と一緒に帰ったら……! せっかく上手くいってたんでしょう?)
ひななは、申し訳なさそうに俺に耳打ちをする。
きっと、俺の恋心の心配をしてくれているのだろう。なんか申し訳ない!
(大丈夫だって……! お前を、一人にできるかよ……!)
俺はそうわざとらしく言って茶化す。
(……ばかじゃないの……?)
ひななは、呆れたようにため息をつく。
「それでは、また明日学校で」
そう言って、らら先輩は俺たちに優しく微笑みかけて中央階段へと向かっていった。
うん。普通にしてたら、誰があの人を、露出性癖持ちの裸族だと思うだろうか。
「俺たちも行くぞ。さ、荷物貸して」
「あ、ありがとう鍵……」
ひななの身体でも運べる荷物だ。男の俺には軽いくらいだった。
荷物を強引に預かると、ひななは少し恥ずかしそうにした。
(よし、ここでらら先輩と別れることが重要なんだ……!)
二人で、ひななの手伝いを行うことも出来たであろう。
しかし、その場合、手伝いが終わった後に、三人で帰りましょうの流れになりかねない!
そうなったら、何かと理由をつけて、二人で学校に残ることが難しくなる。
でも、俺一人なら、「ちょっとトイレ行くからさき帰って」など、ひななと別れることは難しくない!
ここからが、俺とらら先輩、それぞれの聖戦を始まりなんだ!
らら先輩は、例のグッズを使い、屋上への道を切り開く! もし、もう二人がいなくなっていたとしたら、それはそれで好都合だ。
俺は、先代からきっと受け継がれてきた黒いビニール袋を、ひななから守り切る……!
誰が予想できただろうか、屋上への道のりが、ここまで険しいなんて……!
手に汗が溜まる。熱い。
スマホが軽く震える。俺は、荷物を片手持ちに切り替え、内容を確認する。
『困難な道のりを乗り越えた先に、最高の快楽が待っているはずです』
『屋上前の扉で、必ず、また会いましょう』
そう、らら先輩からのメッセージが届いていた。
「ふっ……」
俺は思わず、口元を緩ませる。
そして、返信のメッセージを打ち込む。
『さっきのアイマスクは、自分用ですか?』
『……違います』
『本当ですか……?』
『…………いつかは』
おい!
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