3話 妹
「ふぅ~ただいま~」
俺は家に帰ると、自分の部屋に入る。本棚に敷き詰められた、マンガ、ライトノベルが俺を出迎えてくれる。
アニメのグッズや美少女フィギュアは……まだ購入する勇気がでない。
でも、いつか買えたらなぁとは思う。
ベットに寝転んだ俺は、今日起こった出来事を一人思い返す。
生徒会室に置き忘れてしまったライトノベルを取りに、生徒会室に戻ったら、そこには、憧れのらら先輩の全裸があったのだ。
そこで、らら先輩が露出性癖持ちの裸族であることを知り、その性欲を満足させるために、全裸協力要請受け、全裸共同戦線を組むことになった。
俺は一体何を言っているのだろうか?
「冷静になると、俺、らら先輩の全裸を見たんだよな……?」
俺は必死にそのときの記憶を辿る。
らら先輩の全裸……着やせするタイプなのか、とても大きな二つの膨らみがそこにあった……気がする。
「あれ、思ったより、思い出せない!?」
俺は、ベットにしゃがみこみ、深く頭を抱える。
「どうしてだよ!? あんなに衝撃的なことを、俺は忘れてしまっているとでもいうのか……!?」
その後、目の前で全裸でいる先輩のことを考えないようにしていたのが悪かったのだろうか?
それとも、純粋に驚いてしまったから?
先輩の身体を思い出そうとしても、大事な部分にもやというか、白い光のようなものがかかっているように感じる。
まるで、アニメやラノベの挿絵でよくある全裸みたいだ!
「く、悔しい……!」
先輩にとっては、事故みたいなものだろう。その全裸姿を必死に思い出そうとしている俺は、酷く滑稽だ。
でも、でもだ。どうして、人間の目にカメラ機能がないのか、ここまで悔やんだことはない。
スクリーンショットならぬ。アイショットみたいなものが、人間にはすぐに実装されるべきだ……!
「くっ……生まれる時代を間違えてしまったのか……」
ベッドの上で一人俺が、ガチ落ち込みしていると、
「お兄ちゃん……? 何してるの?」
「……!」
俺が声のする方を振り返ると、そこには、
「マンガを借りにきたんだけど……何か悲しいことでもあったの……?」
心配そうにこちらを見つめている妹の姿があった。
「ミホ……! べ、別に何もないよ!」
小学校四年生。大神美歩。ちゃんと血が繋がっている、俺の実の妹。
「でも、すごーく落ち込んで見えたよ……?」
美歩は、可愛らしいもこもこのスリッパを脱ぎ、ベットに上がってくる。
「私で、よかったら……お話、聞く、よ?」
そう言って心配そうに見つめてくる妹。
め、めちゃくちゃ可愛い! け、けど……
「憧れの先輩の全裸を偶然見ることができたんだけど、なぜかどうしても思い出すことができなくてね。人間の目には、どうしてカメラ機能がないのか、真剣に悩んでいたんだ」
なんて、言えるわけねぇ!!!
可愛い可愛い、純真無垢なこの少女を汚してはならない……! あ、別にロリコンではないですよ? シスコンではあるかもしれませんが、はい。
「ありがとう、ミホ。ちょっと生徒会の……お仕事の関係で悩んでてね。でも、ミホの顔を見たら、何だか元気がでてきたよ」
うん、嘘はついてない。ある意味で、生徒会関係の、お仕事、的な?
「ほんと? それならよかったぁ!」
俺の言葉に、嬉しそうに笑うミホ。控え目に言って、らら先輩を除けば、世界で一番かわいい。
「今日は、どのマンガを借りにきたんだ?」
俺がマンガやライトノベルをよく読んでいたのを見ていたのか、妹のミホは、マンガによく興味を持ち、こうして部屋まで借りにことがある。
「えーっと、今日はね~」
そのとき、
ピロリン。
俺のスマホが、軽快な音を鳴らす。
「あ、お兄ちゃん、携帯が鳴ったよ?」
ベットの上、ミホの近くにあったスマホに気づき、ミホはそれを手に取り、俺に渡そうとする。
「あ、ありがとう。ミホ」
誰からだろう? 俺はスマホを受け取ろうとするが、
「……君野らら……?」
「……!?」
ミホが急にらら先輩の名前を呼び、俺はどきりとする。
あ、もしかして、いま連絡をくれたのは、らら先輩で、それがスマホの画面に出ていたのだろうか?
「お兄ちゃん……この女、誰?」
「え? ミ、ミホ……?」
そこには、目のハイライトを失った妹の表情あった。
「私以外の女と、連絡を取ってるの……?」
これは一体どういう状況だろうか、整理してみよう。
妹が、いつものように部屋までマンガを借りてきているときに、らら先輩から連絡がきた。そのことを知った妹が、急にヤンデレみたいになった。以上。
「どうして、私以外の女を見てるの……?」
「ミ、ミホ……? ど、どうした……?」
俺の妹が、知らない間にヤンデレ属性になってた!? 愛の深さを喜ぶべきなのか、兄としてどう反応すれば!?
「どうして黙ってるの……? お兄ちゃんは、私だけを見ていてよ……」
「ミ、ミホ……大丈夫。俺はちゃんと、ミホのこと見てるから、一旦落ち着いて、ね?」
俺はどうにかしてミホを落ち着かせようと試みる。
というか、ちょっとガチで怖いんですけど!? 小学四年生なのに、うちの妹恐ろしい子!
「じゃあ、約束して……私だけを見てるって……」
そう言って、ミホは正面から俺に抱き着いてくる。
す、すごい良い匂いがする……べ、別に興奮なんかしてないんだからね!
「わ、わかった……」
俺は取りあえず妹を落ち着かせようと、背中をぽんぽん叩く。
「本当? 約束だよ? 破ったら……」
ミホは態勢を変え、俺の耳元で囁く。
「……ろすから……」
「……!」
な、なんだろう、この恐怖と何とも言えない快感は……! すごく、ぞくぞくしてしまった……!?
妹で、ロリで、ヤンデレ……! 破壊力がありすぎませんか!?
「……なーんて♪」
そう言って、俺のもとを離れたミホの顔は、さっきまでのヤンデレモードではなく、いつものミホの明るい笑顔だった。
え、どういうこと……?
「びっくりした? 前にお兄ちゃんに借りたマンガの中で出てきた、女の子のまねっこだよ?」
「な……!」
そ、そういうことか……!
俺はため息をつき、安堵する。よかった、妹は、純真無垢のままだ……あれ、純真無垢ってなんだっけ? ヤンデレの演技ができる子は、純真無垢なんだろうか、俺にはわからない。
「びっくりしたよ……ミホ、心臓に悪い……」
俺は、ベッドから立ち上がり、妹にマンガを差し出す。今回貸すのは、前回貸したマンガの続巻。少年漫画で、妹に貸しても大丈夫な内容、のはず。
「あはは、ごめんなさいお兄ちゃん。でも、お兄ちゃん、ちょっとだけ、嬉しそうだった」
「え? まじ……?」
俺、喜んでいたのだろうか? 新しい性癖を、小学校四年生に開拓されてる?
「うん。だから……」
妹は、俺からマンガを受け取り、それで口元を隠し、頬を赤らめ、
「また、してあげるね……?」
「……きゅん!」
ああ、何だろう、いまのときめき。もう誤魔化せない、確実に、小学校四年生の妹に、新しい性癖を開拓されました、はい!
「マンガ貸してくれて、ありがとうね~」
そう言って、ミホは部屋から出ていった。
「ふぅ……」
うん。俺、らら先輩の性癖のこと、ばかにできないわ。
「あ、そうだ。らら先輩から連絡がきてたんだっけ」
妹の破壊力の凄さに、一瞬、らら先輩から連絡を忘れてしまっていた。不覚。
生徒会に入ったときに、生徒会役員のメンバー全員と連絡先を交換していた。
俺はそのおかげで、憧れのらら先輩の連絡先を手に入れたというわけだ。
業務連絡をすることはあっても、そんなに個人で連絡を取り合うことは多くない。
「どんな内容だろう……!」
俺は、ちょっとどきどきしながら、内容を確認する。
『今日は、はしたないところ見られてしまって、恥ずかしい限りです。良かったら、記憶から消去して頂けると嬉しい限りです』
らら先輩に伝えてあげたい、大事なところが、記憶に残っていないので、大丈夫ですよ、と。
『お話は変わりますが、大神さんは、明日の放課後はお暇でしょうか?』
明日の放課後。つまり、それは、あれのことだろうか。
『それは、今日約束した、協力、もとい、例の件でしょうか?』
俺はそう入力し送信すると、すぐに既読がついた。
『そうです。明後日は生徒会の活動があるので生徒会で、その、できますが……違う場所でのその、早く実行に移すとするのであれば、明日がよいかと……』
明日がよいかと、ってどんだけ早く全裸になりたいんだよ、らら先輩!?
「でも、協力するって、約束したからな……」
昨日、全裸エネルギーを補充したばかりだとは思うけど。
『わかりました。特に予定もありませんので、お手伝いします』
『ありがとうございます!!!』
返信はやっ! どんだけ楽しみにしてるんだよ!
『それでなんですが……したい場所が、あるんです……』
したい場所。つまり、全裸になりたい場所ということか。
『ちなみに、いま聞いてもいいですか? その場所は……?』
一体どこをご指名してくるか。
基本的に、放課後に行うことなので、部活動を行っている教室や、常時解放状態のクラスルームでは全裸にはなれない。
となると、候補となる教室は限られてくる。
俺は、らら先輩の返信を待つ。そして、らら先輩のしたい場所が、判明する。
『場所は――――――――――――――屋上です』
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