5話 放課後
放課後。ついにこのときがやってきた。
俺は緊張した面持ちで、屋上へとつながる階段がある、三階にいた。
屋上へつながるのは、校舎の真ん中に位置する中央階段のみ。
ただ、ここで待っていてもただの怪しい奴なので、男子トイレの大便器に引きこもり、らら先輩からの連絡を待っていた。
けっして大をしているわけでも、自家発電をしているわけでもないぞ!
すると、
『お持たせしました。私も、位置につきました』
らら先輩から連絡が入る。これは、らら先輩もトイレの中に籠ったという合図だ。
ついに作戦実行のときが来たのだ!
俺たちの作戦はこう。
まず、お互いにトイレの中に籠る。
そして、自然な顔でトイレから同時に出て、何事もなかったように中央階段から屋上に向かう。
屋上にたどり着いたら、俺が『ゲート・ブレイクアウト』(※鍵を開けること)を使用し、スムーズに屋上に侵入する。
一応二人で屋上に誰もいないかを確認した後、らら先輩を屋上に残し、俺は自然に撤退する。
俺は中央階段近くの窓を開け、「夕焼けが目に染みるぜ……」と呟き、黄昏たふりをしながら、屋上に誰も向かわないか見張る。
ただし、屋上に向かうまでに誰かに見つかった場合、自然を装いながらもう一度トイレに籠る。(※成功するまで繰り返す)
何度段取りを見直しても完璧で、俺は思わずトイレで踏ん張りそうになる。(※大はしていません)
放課後までの時間を使って考えたこと作戦が、失敗するわけがない!
『行きますよ? ミッション・スタート!』
俺がらら先輩にメッセージを送り、既読がついた瞬間、俺はトイレの栓を勢いよく回し、水を流す!(※トイレに入っていたことをカモフラ―ジュするためで、大はしていません)
まるで戦いの合図のように、水が流れ出す。
(よしっ! まず、男子トイレ内に人はいない!)
俺は軽く手を洗い、男子トイレから出る。
同じタイミングで、らら先輩も女子トイレから出てきて、俺たちは一瞬のアイコンタクト取る。
(これは……行ける!)
(これは……イけます!)
そう確信し、中央階段に向かったときだった。
「な、んだと……?」
階段の下から、派手な髪色をした男女が上がってくる。
そして、一瞬。確かに、男子の方と目が合ってしまった!
(さ、作戦失敗……! 緊急回避!)
俺は咄嗟に、自分のお腹に手を当て、しゃがみ込む。
「ぐおお……まだ、便意が残っていたなんてぇええ……!」
迫真の演技!
俺はトイレにもう一度籠るためのアリバイを作り出す!
どうだと言わんばかりに、らら先輩を見るが……
「……」
その顔は軽く引いていた。なんでやねん!
そして、俺のアイコンタクトで我に帰ったのか、らら先輩も、
「う、生まれそう……!」
と、産気づいた妊婦を演じ始める。
ってそれってトイレに戻るアリバイになってなくない!?
トイレで子どもを産むつもりなの、らら先輩!?
俺たちは、とりあえず、派手な男女が階段を上りきる前に、トイレに逃げ込む!
「ふぅ~とりあえず、なんとかなった……」
多少不審がられてしまったかもしれないが、何とかなっただろう。
俺は次の出撃の合図を送るために、らら先輩にメッセージを送ろうとするが、
「へ……」
「つ、ついてきて、しまいました……」
男子トイレの個室には、俺と、そして、なぜからら先輩がいた。
なんでやねん!
と叫びたくなるのは、なんとか堪える。
ここで叫んでしまったら、らら先輩が男子トイレに入っていることが周りにばれかねない!
(どうしてついてきたんですか!)
俺はひそひそ声で話す。
(ごめんなさい……動揺して、つい……)
申し訳なさそうにそう言うらら先輩。
冷静に見てみると、今の図はなかなかやばい。
洋式の便器に座っている俺と、その足の間にしゃがみこんでいるらら先輩。
いや、なんのプレイだよ!? ちょっと興奮しちゃうじゃん!
俺は平静をよそいながら、
(仕方ありません、俺が先に出て、男子トイレの外を見張ってから、らら先輩は出てきてください)
そう大真面目に伝えるが、なぜからら先輩の顔が赤くなっている。
(ど、どうしたんですか?)
俺は少しどきどきと緊張しながら、そう尋ねる。すると、
(だ、男子トイレの中で、全裸になったら……どんな気持ちなんでしょうか……)
はぁはぁと息を荒くし出すらら先輩。
だめだ! 本物の変態だ! 早くなんとかしないと!
(それは、またの機会にしましょう!)
俺はらら先輩を残し、男子トイレから出る。
そして周りを確認し、誰もいないことがわかると、らら先輩にメッセージを送る。
らら先輩はふらふらと顔を赤くして男子トイレから出てきた。
「はぁはぁ……男子トイレも……すごい……」
まるで事後じゃないか!?
あれ、これもう、次誰かに見られたらジ・エンドじゃない?
俺たちは自然なふるまいで中央階段に向かう!
こんどは、階段の下から上がってくる人影はない。
(行ける……!)
ついに、俺たちは、屋上への道の一歩を踏み出したんだ!
らら先輩の顔が、屋上での快感を思い浮かべているのか、快楽に歪む。
とても嫁入り前の女の子の顔じゃない!!
はやく楽にしてあげようと、階段を何段階か登ったときだった。
「ん……、すごい……」
え? どこからか、女の子の艶めかしい声が聞こえてくる。
俺は咄嗟にらら先輩を見るが、らら先輩は小さく頬を膨らませ、自分じゃないと首を横に振る。かわいい。
(じゃあ一体、どこから誰が……?)
そして、俺が屋上へとつながる階段を見上げると、そこに微かに二人の派手な人影が見えた。
(あれは、さっき階段を上がってきた、二人!?)
それに、まさか……
「あっ……もっと……」
屋上の扉の前で、ナニしてらっしゃるー!
俺たちは咄嗟に二人に見えないように隠れる!
(ど、どうしたらいいんだ……!)
屋上に行くまでの道がこんなに険しいなんて!
「ま、まるで焦らしプレイみたいです……」
そう言って嬉しそうにもじもじする先輩。
変態はどんな状況でも楽しめるの!?
「そ、そうだ! 俺たちは生徒会だから、二人を不純異性行為で注意して、どいて貰えば……!」
まさに屋上に不純行為をしに行こうとしてる奴らに注意されたくないかもしれないけどさ!
「そうすると、私たちがどうして屋上に上がってきたのか、説明がつかないような……」
「た、確かに……!」
前門には不純異性行為を行う二人、後門には焦らしプレイで興奮している先輩!
俺は一体、どうしたらいいんだー!? 続く!!
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