12月5日 18:50 晴れ 気温13度

 女性なら誰だって恋していいはず、おば様だって、そして私も……


 デパートの前をたくさんの人が通り過ぎていく。

 スマートフォンを眺めながら、体をリズミカルに動かす高校生。

 はぁっとため息をつきながら、路面を眺めるサラリーマン。


 そして……やってきました!

 遠くからゆっくりと歩いてくる大学生くらいの男の子。

 アイボリーの「ニットカーディガン」に「黒マフラー」を首に巻き、口元がちょっと隠れている。


 いつも私の前を通るとき、ちらりと私に目を向けてくれる。軽く手を振ってみるけど、そのまま通り過ぎてしまう。


「お姉ちゃん、何見ているの?」

「え?」

 カメラの視点を下に向けると、小さな女の子が立っていた。


「えーとね、『カッコイイ』男の子がいたから観察していたの」

「ふーん、好きなの?」


 ーー「好き」とは何がでしょう?ーー


「それは……どういうこと?」

 私は混乱しながらも、歪んだ笑顔で女の子に尋ねてみた。


「お姉ちゃん、恋をしたことないの?」

「『恋』? その言葉は知っているけど、自分では経験したことがないの」

「ふーん、でもそれが恋っていうのよ。私もリョウくんに恋してるんだ」


 け、検索……!

「恋」……特定の異性が気になり、大切に思ったり一緒にいたいと感じること。


「そうなんだ……これが『恋』。ありがとう、勉強になったわ。ところで……お嬢ちゃんはどうしたのかな?」

「……」

「ん?」

「お母さんとはぐれちゃって、どこにいるのか、わからないの」


 えっえっと、泣きだす女の子。それは大変です! すぐに探さないと!


「お名前は? それとお母さんはどんな感じの人かな?」

「エリカ。赤いセーターと黒のスカート」

「よーし、待っててね。今探すから」


 私は店内の全監視カメラのアクセスを始めた。カメラ映像が私の目の前で、次から次へと流れていく。

 1階化粧品コーナー、いない。

 2階婦人服フロア、いた! 赤いセーターと黒のスカートがマッチング!


「お母さん、いたよ! 今呼び出すから」


 ピンポンパンポーン、迷子のご案内です。婦人服フロアにいらっしゃいますエリカちゃんのお母様、エリカちゃんのお母様、お子様がデパート入口でお待ちしております。すぐにお迎えに来ていただきますよう、お願いいたします。


 しばらくすると焦った表情のお母様が走ってきた。


「エリカ! どこ行っちゃうの!」

「……ごめんなさい」

「どうもすみませんでした、ご迷惑おかけして」

 お母様はペコペコと私にお辞儀してくれた。


「いえ、これも私のお仕事のひとつです。お気になさらずに」

 敬礼のポーズを取ってみた。


「お姉ちゃん、ありがとう。お姉ちゃんの恋、応援してるからね」

「ハイ! 『恋』かどうかはわからないけど、少し勉強するね」


 バイバイと手を振ると、女の子とお母様は手をつないで、その場を離れていった。


 私はあの人に「恋」をしている?

 名前はなんて言うんだろう?


 両手を頬に当て、顔を少し赤らめてみた。

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