12月23日 18:35 曇り 気温4度

 明日はいよいよクリスマスイブ、街はすっかりクリスマスデコレーションで賑わっている。手をつなぐ親子、腕を組むカップル、ベビーカーを押すお母さん、みんな笑顔で楽しそう。


 そして……私がここにいるのもあと一日。

 この幸せな情景を見れるのも明日まで。

 

 せめて、あの人にもう一度会いたかった。最後のお別れがしたかった。


「あの……」

 はっ! また自分の世界に没入していた、しっかりしなきゃ、お仕事お仕事。

 カメラの個人認識システムが捉えたその人は……


「トモルくん!」

「久しぶり、今日は用事があって寄ったんだ」

「どうしていたんですか? 当分いらしていませんでしたけど」


「うん、友人のことで色々あって……それで彼女をなんとか元気づけてあげたいと思って」

「彼女……?」

「発達性白内障で、目の見えない人がいるんだ。手術を受ければ、なんとか回復するかもしれないんだけど、まだ決心がついていない。それで明日プレゼントを渡して、励ましてあげようと思っている」


「アルバイトはそのために?」

「そうなんだ、それで今日はその買い物に来たんだ。相談に乗ってくれる?」

「なぜ私に?」

  何を言っているの、それが私のお仕事でしょ?


「それは……君が彼女にそっくりだったから」

「それで私をいつも見ていたの?」

「うん、彼女に会えない時、思い出すように眺めていた」

「『好き』なんですね、その人のこと」

「好きと言うか……大切に思っているというか……」


 検索 …… …… …… マッチング

「『愛している』ということですね?」


 びっくりした表情をするトモルくん。

「ああ、そうか……うん、そうかもしれない」


 私を囲うガラスの箱がカシャンと音を立てて、割れていくようだった。ガラスの破片は辺りに飛び散っていた。

 でも……私のお仕事はみんなを幸せにすること、彼のためにできる限りのことをやっておきたい。


「……そうですか、わかりました! とっておきのプレゼントをお見せしましょう」


 私が両手を大きく上にかざすと、光の帯が差し込み、アイテムが舞い降りてきた。

 そのアイテムを手に取り、自分の胸元に添えてみた。


「アクアマリンのネックレスです。彼女は私にそっくりなのでしょう? きっとこんな感じでお似合いだと思いますよ。宝石言葉は『勇気・幸せ・喜び』。勇気を与えてあげてください」

「すごく似合っている。うん、これにしてみようかな?」

「少しお高いですが、ここは頑張っちゃいましょう! 5階のジュエリーコーナーにあります」

「ありがとう……君のおかげで僕も勇気づけられた。それじゃ、また」

 彼は片手を振ると、まっすぐにデパートの入口へと向かっていった。


 一粒の宝石がまぶたから落ちてキラリと光っていることを、たぶん彼は気づいていない。

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